2016年12月24日土曜日

歴代アメリカ大統領とトランプの比較

はじめに


 トランプについてはまだ研究が進んでいない。なぜなら現在進行形なので分析材料が十分ではない。ただ現状で分かる範囲で歴代大統領との類似性を考えみたい。
 私がトランプとの類似性を認めるのは、アンドリュー・ジャクソンセオドア・ローズヴェルト、そして、ロナルド・レーガンの三人。三人の詳細についてリンク先の私のホームページを見て欲しい。ではひとり一人見ていこう。


アンドリュー・ジャクソンとの類似点


 類似点その一、ワシントン政界のアウトサイダー


 ジャクソニアン・デモクラシーという言葉がある。どういう言葉か。大統領制度に限って言えば、アメリカ大統領がより大衆の手によって選ばれるようになったことを指す。
 建国期、アメリカ大統領を選んでいたのは実質的に政党の幹部や州議会であった。政党の幹部が大統領候補を擁立する。そして、州議会が選挙人を選ぶ。つまり、一部の人が大統領を選んでいた。
 しかし、ジャクソンの時代になってそれが大きく変わった。選挙人が一般投票で選ばれるようになった。詳しくは私のホームページの選挙人制度の解説を読んで欲しい。
 さらにジャクソンはワシントン政界の人間ではない。ジャクソン以前の6人の大統領はすべて政界の中枢で政治経験を積んでいる。

  • ジョージ・ワシントン―憲法制定会議議長
  • ジョン・アダムズ―副大統領
  • トマス・ジェファソン―閣僚・副大統領
  • ジェームズ・マディソン―閣僚・副大統領
  • ジェームズ・モンロー―閣僚
  • ジョン・クインジー・アダムズ―閣僚

 つまり、ジャクソンは完全なワシントン政界のアウトサイダーで初めて大統領になった人物である。トランプも完全なアウトサイダーである。

 類似点その二、実利誘導的な政策


 次にジャクソンはこれまでにない支持層を持っていた。代表的なのは西部の白人自作農である。彼らは東部のエスタブリッシュメント(支配階層)に不満を抱き、その体制にノーを突き付けた。
 ジャクソンはこれまで無視されてきた彼らの代弁者を務めた。代弁者という役割は、時代を経るについれ大統領の重要な資質になる。トランプにもそういう資質がある。
 ジャクソンは彼らの声を背景に合衆国銀行を廃絶した。合衆国銀行は東部の投資家が西部の自作農から富を強奪する手段に他ならないという論理である。合衆国銀行の内実を見れば必ずしもそうとは言えない。しかし、人々の願望を満たす政治家が高く評価される。たとえそれが第三者から見れば不公正な願望であっても。
 さらによく知られているようにジャクソンはネイティヴ・アメリカンを西部に強制移住させている。第三者から見ればそうした政策は不公正だが、西部の白人自作農から見れば最高の恩恵である。
 トランプの政策も似たようなものになるかもしれない。合衆国全体の調和ではなく、支持者に恩恵があるかどうかで政策を選択する。もしくは支持者の人気を得やすい政策を選択するかもしれない。そうすればトランプ自身、もしくはその周囲にいる人間が本当に実現したい政策を実行しやすくなる。

 類似点その三、強権的な手法

 


 ジャクソンは非常に気性が激しいことで知られていた。決闘をよくしたことでも知られている。敵対する者は容赦なく叩く。そういう性格である。
 ジャクソンの個性は政策にも反映されている。関税をめぐってサウス・カロライナ州が連邦法は無効だと言い出した時、ジャクソンは軍事力をちらつかせながらサウス・カロライナを従わせた。
 こうした強権的な手法は多くの敵を作り、「アンドリュー1世」と揶揄されている。それはトランプが「トランプ1世」と揶揄されているのと同じである。 ジャクソンは合衆国銀行をめぐる強権的な手法で批判を浴びた。今後、トランプが外交なり、核軍備なり、国内政策なりを強権的な手法で推し進めれば、きっとこうした「アンドリュー1世」の風刺画が甦ることになるだろう。







セオドア・ローズヴェルトとの類似点


 類似点その一、政治的アレキサンダー

 
 政治的アレキサンダーとは従来の政治の仕組みを根本的に変えようとする者のことを指す。私が作った用語である。詳しくは私の解説を読んで欲しい。
 ローズヴェルトが生きた時代は、アメリカ政治において議会が最も力を持った時代であった。大統領は単なる行政府の番人でしかなかった。それをローズヴェルトは根本的に変えた。
 大統領は自らの政策を議会で立法化する必要がある。そのため議会を説得しなければならない。そうなると本来、説得すべき相手は議会である。しかし、ローズヴェルトは議会ではなく人民を説得しようとした。つまり、人民を動かすことで間接的に議会に圧力をかけて自らの政策を実現する手段とする。
 つまり、これまでにない新しい仕組みをローズヴェルトは作ろうとした。そうした意味でローズヴェルトは政治的アレクサンダーである。
 トランプも同じく、ツイッターでよりダイレクトに、よりリアルタイムに、よりパーソナルに支持者に訴えかけることで既存のマス・メディアと対抗する構図を作り上げている。そうした意味で政治的アレクサンダーである。

 類似点その二、共和党内の非主流派

 
セオドア・ローズヴェルトは、当時、勃興していた革新主義の代表的な政治家の一人であった。革新主義とは簡単に言えば、19世紀後半に拡大しつつあった経済格差を是正すべきだという大衆運動である。
 ローズヴェルトは着実に政治経歴を積み重ねつつあったが、どちらかと言えば実業界よりの共和党の主流はから胡散臭い眼で見られていた。そこで閑職と考えられていた副大統領にローズヴェルトを据えることで大人しくしてもらおうと考えた。
 その当時、大統領候補や副大統領候補の選出方法は、スモーキング・ルームという表現があるように、煙が充満した部屋で党の幹部が議論を交わした末に決定するという方法であった。そのため党の幹部はローズヴェルトを副大統領に据えることができた。
 これでローズヴェルトも大人しくなるだろうと党の幹部は期待したが、予想外のことに、ウィリアム・マッキンリー大統領が暗殺され、ローズヴェルトが副大統領から昇格して大統領になってしまった。党内の中でも予想外の者が大統領になってしまったと言える。この点はトランプと非常に似ている。
 ローズヴェルトは大統領退任後、後継者のウィリアム・タフトと革新主義的な政策をめぐって袂を分かつ。そして、あろうことか再選を目指すタフトに対抗して自ら大統領選挙に打って出た。
 しかし、ローズヴェルトは共和党大統領候補指名を獲得できず、第三政党の候補として出馬した。その結果、タフトの票を大幅に奪う結果になって、ウッドロウ・ウィルソンの勝利に加担した。こうした非主流派という点で、ローズヴェルトとトランプは類似点がある。
 ただ違う点もある。ローズヴェルトは「独占禁止法取締官」の異名を持つように、実業界に対して厳しい姿勢で望んだ。
 その一方でトランプの場合、実業界の取り締まりの基準は、独占ではなく、アメリカに雇用をもたらすかどうかだ。保護関税を設定して、メキシコに工場を移転させるような企業には厳しい制裁を科すという考えだが、これは必ずしも実業界全体に対する厳しい姿勢とは言えない。むしろアメリカ人の雇用が増えて国内需要が高まることを期待する企業人は多いだろう。

 類似点その三、棍棒を持って穏やかに話せ


 セオドア・ローズヴェルトの有名な「棍棒外交」のキーフレーズである。つまり、軍事力、特に海軍力を背景にして外交を進めればうまくいくという手法である。
 トランプの場合、まず無理難題のように思えるような主張を行う。つまり、とりあえず相手を強く殴って次に相手がどう出るか反応を見る。そして、反応からどの程度の要求が押し通せそうか見極める。
 核軍備に関する発言にもそうした背景があるかもしれない。現代では、「棍棒」は海軍力ではなく核兵器である。今の時代になおせば「核兵器を持って穏やかに話せ」だろうか。穏やかな話し方で済むかどうかは分からないが。
 ローズヴェルトの場合、パナマ運河をめぐる動きから分かるように、棍棒を実際に振るう時もあった。それはパナマ運河の掌握がアメリカの勢力圏を維持するために重要だと考えたからだ。
 トランプはどうだろうか。世界の警察を辞めると言っているが、アメリカの重大な利益に関わる場合はローズヴェルトと同じく棍棒を振るうかもしれない。おそらく「人道主義」といった曖昧なものでは動かないだろうが。

ロナルド・レーガンとの類似点


 類似点その一、偉大なる伝達者


 レーガンはラジオの司会者をしていたことでよく知られている。レーガンが若い頃はラジオがマス・メディアの花形であった。つまり、レーガンは大衆にどのようにコミュニケートすればよいか理解していた。そのため「グレート・コミュニケーター」という異名が付いている。
トランプの場合はテレビになる。テレビをいかに使うかを理解している。さらにツイッターの利用でも分かるようにインターネットも駆使している。
 レーガンとトランプの共通点は、言辞が過激であることだ。過激であると同時に分かりやすい。冷戦末期においてレーガンは、ソ連を「悪の帝国」と呼んで激しく非難したことは有名である。しかし、その一方でベルリンでゴルバチョフに対話を呼び掛けた演説も有名である。つまり、硬軟両方を使い分ける手法である。
 トランプも大統領選挙の最中に過激な発言を繰り返しているが、後に一部を修正したり、穏当な方向に変更したりしている。風見鶏のように各所の反応を見て動いていると言える。

 類似点その二、大きな軍事力を持つ小さな政府


 レーガンの政治思想の中核は、連邦政府という存在自体が重荷になっているという発想である。徹底的に無駄を省いて小さな政府を実現するべきだという考え方である。
 トランプも同じ発想の流れを汲んでいるようである。それは国防総省における莫大な事務経費の問題について発言していることから窺える。
 ただレーガンはSDI構想で知られるように軍事費については拡大を容認したと言える。それはトランプも似ているかもしれない。
 もちろんただ軍事費を拡大すれば財政が悪化してアメリカ経済のマイナス要因になりかねない。そこで登場するのが核戦力の増強である。
 つまり、通常戦力を削減して、その削減分を各戦力で補うという考え方である。トランプが実際にそのような政策を実行するかは未知数だが、レーガンと同じ道を進む可能性は大いにある。

 類似点その三、高齢の大統領


 2017年1月20日に就任することでトランプはこれまでレーガンが持っていた最高齢就任記録を塗り替える。高齢という点で両者は共通点を持つ。
 レーガン政権で問題になったのは大統領の健康問題である。ウッドロウ・ウィルソンは政権末期にほとんど政務ができない状態に陥ったが、権限の移譲は行われなかった。レーガンの暗殺未遂事件の時に治療を受けているが、その時、副大統領に権限が正式に移譲されることはなかった。そのことで批判を受けたレーガンは、手術をする際に副大統領のジョージ・H・W・ブッシュに正式に権限を移譲している。
 トランプがどのような健康状態にあるかは分からない。実は大統領の健康状態はあまり知られることはない。グロヴァー・クリーヴランド大統領は喉頭癌の手術を秘かに行っているし、フランクリン・ローズヴェルト大統領は歩行困難であったが、それを知る者はほとんどいなかった。車椅子を使用していたが、そうした様子を捉えた写真は非常に少ない。またジョン・ケネディ大統領も様々な健康問題を抱えていたが、表面上は若く溌剌とした大統領であった。
 したがって、トランプも今のところ何も健康に問題がないよう見えるが、本当にそうだとは限らない。大統領が職務執行が困難になった時にどうするかは憲法上、規定があるが、これまでそうした規定が適用された例はない。
 トランプは就任時に既に歴代アメリカ大統領の平均寿命を迎えている。トランプの身に何かあれば、どのように憲法上の規定が適用されるのかをめぐって混乱が生じる恐れがある。