ヨークタウンの義勇兵

 ある副官が馬に乗って状況を視察していた時、一人の粗野な格好をした男の姿が目に入った。汚れた前掛けを締めて、頭にはカワウソの皮の帽子を被っている。ウッドチャックの皮でできた大きな鞄を引きずっていて、肩に古ぼけて錆び付いた銃を担いでいる。それは銃身から銃尾まで二三〇cmはあろうかという年代物である。初めて植民地を建設した人びとが使っていたと言われても、きっと誰も疑わないだろう。  
 いったいこの男はどこの奥地から出てきたのだろうと思いながら副官は、どこの連隊に所属しているのかと質問する。男はぶっきらぼうに答える。
「所属している連隊なんぞねえ」  
 そして、副官に背を向けるとイギリス軍がいる方角に銃を構えて発砲する。しばらくして副官がまたかたわらを通り掛かった時、男は銃に弾薬を詰めるのに忙しい最中であった。副官は再びどこの連隊に所属しているのかと質問する。男はうるさそうに唸る。
「連隊なんぞねえ」
 そして、銃を構える。銃口が向けられた先にはイギリス兵がいた。まさに発砲しようとしていたイギリス兵は銃を手にしたまま崩れ落ちる。男の銃弾が見事に命中したのである。男が銃を下ろすのを待って副官は強い口調で詰問する。
「おまえはどこの大隊に所属しているのか」  
 男はむっつりして答える。
「大隊なんぞねえ」  
 猶も副官は詰問を続ける。
「ではどこの中隊に所属しているのか」
 男はもううんざりだという表情を浮かべながら答える。
「中隊なんぞねえ」。  
 副官は半ば呆れながら聞く。
「ではおまえはどこに所属して、誰のために戦っているのだ」
 さも当然だという顔をして男は嘯く。
「畜生め、俺はどこにも所属してねえ。俺は俺のために戦っているんだ」
 おそらく大陸軍にはこういう押しかけ義勇兵がたくさんいたことだろう。アメリカの自由や独立といった理念のためではなく、自分のために戦う。イギリス兵や本国支持派の暴虐に鉄槌を下す。それが当時の多くの庶民の戦う理由であったかもしれない。