歴史クラスタのみなさんと研究者の付き合い方

今からお話する内容はあくまでマナーです。ルールではありません。マナーはお互いに気持ち良く過ごすためにあります。ルールと違って強制力を持ちませんし、一人ひとり違う場合もあります。ただマナーを守ると良いことがあるかもしれません。基本的に研究者は自分の分野に興味や関心を持ってくれる人がいたら嬉しいと思います。

長年にわたってどうしてもどうしても知りたいこと。でもどの本にも載っていなくてわからないこと。歴史クラスタのみなさんなら一つや二つ、場合によってはもっとたくさんあるかもしれません。

ではどうすれば疑問が解決するでしょうか。その分野に詳しい研究者に聞くのが一番です。ここで問題が生じます。どうすれば研究者に快く答えてもらえるのか。それを私なりに考えたいと思います。

以前、こんなことがありました。A新聞の記者だと名乗る方から連絡がありました。

「・・・・・をWikipediaで見たが分からないので教えて欲しい」

私は自分が分かる範囲で答えましたが謝礼はありませんでした。

はっきり言ってこれはアウトです。では何がアウトなのでしょうか。

第一に、「Wikipediaで見た」は調べたうちに入りません。もちろん研究者自らが該当のWikipediaの項目を書いている場合もありますが、それは例外的です。せめてその分野の研究者に問い合わせるなら「先生のご本を拝読しました」くらいは言ったほうがいいです。さらに「大学の紀要を拝読しました」と言うと効果はさらに上がるでしょう。

ここで第一の大原則!

まずは自力で徹底的に調べること!

「いろいろ調べたけれど、どうしても分からないから教えて欲しい。でも本当に知りたいから教えて欲しい」という魂の叫びを聞けば、研究者も真摯に向き合ってくれるでしょう。

第二に、営利目的の場合、最低限度の謝礼は必要です。なぜなら材料を無料で仕入れて高く売るのはありえないことだからです。確かに知識は形が無いので無料で分け与えられます。しかし、その知識を得るまでに多額の投資が必要です。

もちろん個人の趣味の範囲ならこの限りではありません。また研究者に直接問い合わせるのではなく、単に引用や参考ですませる場合もこの限りではありません。しかし、研究者が知識を得るまでに多額の投資をしていることを理解して、直接問い合わせる場合はできれば「謝礼は必要ですか」と聞くと心証が最高になると思います。

ではいざ具体的に研究者に直接問い合わせる場合は、どのように聞けばよいのでしょうか。当然ながらその研究者の詳しい分野にしぼって聞いて下さい。例えば私はアメリカ大統領の研究者なので「ホワイト・ハウスの大統領執務室に掛かっている絵の来歴を教えてほしい」という特殊な質問には答えられます。しかし、「アメリカ文学を教えて下さい」といった一般的な質問には答えられません。したがって、直接問い合わせる場合は、わざわざ研究者に聞くべき質問なのか考えましょう。

ここで第二の大原則!

研究者が知識を得るまでに多額の投資をしていることを理解しよう!

城郭学者の千田嘉博がこんな話をしていました。

正確な内容は忘れましたが、講演会に来た方から「その話は芸能人が喋っていたのと同じ内容でつまらない」といった旨を言われたそうです。それは研究者に絶対言ってはいけないことです。

なぜでしょうか。それは研究者の努力を全否定する言葉だからです。

例えば私は今、アンドリュー・ジャクソン大統領に関する専門書を出そうと準備しています。その本には次のような文章を掲載する予定です。
ジャクソンは、連邦法無効闘争において連邦制度における州権の在り方について連邦の統一性が優先されることを示した。ただジャクソンは連邦政府の権限強化を目指していたわけではない。むしろ連邦政府の権限強化の行き過ぎを抑止しながら州権を守ろうとしていた。そうした政治的目標の遂行を大統領権限の強化という一見すると中央政府の強化に繋がるような逆説的な手法を駆使してジャクソンは達成しようとした。
たったこれだけです。でもたったこれだけの言葉を書くために先行研究を読んだり一次史料を調べたり膨大な時間をかけています。受け売りとは本質的に違います。蚕が桑を食べて絹を吐くようなものです。それを理解してもらえると研究者は嬉しいと思います。

最後に第三の大原則!

できる範囲でよいので研究者をサポートしよう!

実は研究者が本を出したくても出せないことが多くなっています。いくら専門書が採算度外視でも最低限の印刷費を回収できなければ出版社がつぶれます。

では具体的に何をすればよいのでしょうか。簡単です。研究者が出した本を買いましょう。さらに公共図書館に購入リクエストを出しましょう。大事だからもう一度言います。公共図書館に購入リクエストを出しましょう。特にシリーズものは継続購入になる可能性があるので購入リクエストは有効です。

全国の公共図書館は約6,000館あります。その中で5%が購入するだけも300冊です。少ない数字ですが、そもそも専門書は発行部数が数百部が普通なので十分に大きな需要です。

あとできることは、研究者が本を出したら積極的に宣伝に協力しましょう。専門書は儲からないので広告費を掛けられません。したがって、存在自体が想定読者に知られない可能性があります。だからどんどん宣伝して下さい。「こういう本が出たよ!」と。

蚕は桑を食べて絹を吐きますが、世話をしないと死んでしまいます。それと同じでサポートがあれば、研究者はきっとさらに素晴らしい研究成果を発表してくれるでしょう。しかし、サポートがなければ・・・。