なぜ大統領選は今のような複雑な制度なのか

選挙人は必ずしも人口に応じて配分されているわけではない


 以前、ヒラリーとトランプの票が同数になったらどうなるかについてはここに書いた。それで今回は大統領選の仕組みについてまとめておきたい。
 テレビや新聞など大統領選についていろいろ報道している。そこで疑問に思わないだろうか。なぜこんな面倒なシステムになっているのと。一般投票やら選挙人やらなんで面倒なんだと。

 一番簡単な方法は、アメリカ全土を一つの選挙区にして集計して最多票を獲得した者が当選という方法だろう。国民の意思を反映しているのだからそれで良いように思える。

 しかし、ここで忘れてはならないのは、アメリカが連邦制の国だということ。国民の意思も大事だが、各州の意思も無視できない。もしアメリカ全土を一つの選挙区にすれば各州の意思を無視することになる。だから選挙人を各州に割り当てることになる。

 選挙人の割り当てだが、昨日の日経新聞に人口に応じて割り当てると書かれていたが違う。連邦議会の構成を見れば分かるように、アメリカの連邦政府は必ずしも人口に応じて代表されているわけではない。原則、下院の議席配分は人口に応じているが上院の議席配分は各州に2人ずつだ。

 選挙人の配分は州選出下院議員の数と州選出上院議員の数になる。例えばカリフォルニア州の選挙人の数は、下院議員53人+上院議員2人になる。だからすごく人口が少ない州でも最低3人はいる。

 カリフォルニア州の人口は約3800万、ワイオミング州の人口は約58万人。そうなるとカリフォルニア州は約70万人に1人の割り当てでワイオミング州は約20万人に1人の割り当て。人口に応じていないのは明確だ。

 もし1票の重みが違うとカリフォルニア州の住民が裁判所に提訴したらどうなるか。きっと敗訴するだろう。

 なぜなら選挙人の配分が人口に必ずしも比例していないのは、有権者の多数決で決定するという民主主義の論理と州の多数決で決定するという連邦制の論理の二つが並存しているから。連邦制という憲法で認められた原理があるのでたとえ1票の重みが違ってもこの場合は認められる。

そもそもなぜ間接選挙なのか


 一般投票ですべて決定すればよいのではないか。なぜなら選挙人は原則、一般投票の結果に従って投票するだけだから完全に形骸化しているからだ。

 まず建国の父祖たちは実は民主主義(昔、デモクラシーという言葉は衆愚政治という意味合いが強かった)を恐れていた。危ない扇動家が出てきて民衆を意のままに動かせば国はおしまいだと考えていた。そこでワンクッション置いて良識ある人々に大統領の選出を委ねようと考えた。それが選挙人。

 選挙人は州が好きな方法で選ぶことができる。一般投票で選んでもいいし、州議会が選んでもいい。州法、もしくは関連する州憲法を改正しさえすれば州知事の一存で決めるということも可能。つまり、選挙人は州の主権を尊重した連邦制の残滓だと言える。だからおいそれとなくせない。たとえ形骸化していても。