ハミルトン未亡人の逸話

 私[ジェームズ・ウィルソン:1837-1925]は、96年もの星霜を経て銀色になった髪を持つ尊敬すべき淑女から招待を受けました。若い頃、彼女と私の代母は同じ家庭教師に教わった仲でした。2人は13歳の時に別れて、それ以後、直接会うことはありませんでした。広大な大西洋が2人の間を隔てていましたが、2人はほぼ80年にわたって文通を続けました。
 18歳[実際は22歳]のエリザベス・スカイラー[1757年~1854年]は、ニュー・ジャージーのモリスタウンに軍が駐留している時にワシントン夫妻と[1779年~1780年の]冬を一緒に過ごしました。多くの求婚者の中から彼女は1人の若い砲兵大尉に手と心を預けました。そして、2人はオールバニーにある彼女の父[フィリップ・スカイラー]の邸宅で結婚しました。123年前[1780年]のことです。
 私が訪問した時[1853年]、彼女が若い大尉と死によって分かたれてから半世紀が過ぎていましたが、総司令官と後に大佐として幕僚の1人になった彼のことを愛情を込めて話しました。彼女は、ワシントンがその時代において最も威厳を備えた人物であり、最も優れた騎手であったと述べました。1頭の駿馬に跨がった彼はいつも兵士達を鼓舞していました。
 私がこの尊敬すべき女性に別れを告げようとした時、彼女は『私の若き友人よ、あなたが今、唇を付けたまさに同じ手にしばしばワシントンが唇を付けていたことを忘れないでいてくれれば嬉しく思います』と私に言いました。
 1年後、私はニュー・ヨークのトリニティ教会の陰の下に彼女が彼女の若い大尉の傍らに葬られたのを知りました。その若い大尉の名声はアメリカの政治家の中でも最も輝かしいものであり、世界の隅々まで響いています。彼の名前はアレグザンダー・ハミルトンです。