アメリカ歴史旅I―フロンシス亭(ニュー・ヨーク)

ニュー・ヨーク・シティにあるフロンシス亭。数々の建国史の舞台として登場する。

George Washington and Officers
士官たちとフロンシス亭で別れを告げるワシントン

George Washington Leaves Fraunces Tavern
フロンシス亭から去るワシントン

Fraunces Tavern in 19th Century
19世紀末のフロンシス亭

Fraunces Tavern in 21th Century
現在のフロンシス亭

19世紀末とは違って昔に近い感じに復元されている。Tavernは「居酒屋」だが、お酒を飲むだけではなく、地元の人びとの社交の場であり、宿屋の役割も果たしていた。特に入り口付近に注目。2枚目の歴史絵画に描かれている通りに再現されている。

Fraunces Tavern's sign
フロンシス亭の看板

Interior of Frances Tavern
貴賓室

Interior of Frances Tavern
舶来品で高価な鏡

Interior of Frances Tavern
階段

Interior of Frances Tavern
酒瓶

Interior of Frances Tavern
フロンシス亭の食事

フロンシス亭は今でも実際に食事ができる。当時の人びとの気持ちにひたれる。食事だけでもよいが、資料の展示もやっているからそれも是非とも見て欲しい。

『アメリカ人の物語』から抜粋

 12月4日正午前、フロンシス亭の2階にある宴会場にノックスやシュトイベンをはじめとする40人程の将官が集まる。ワシントンがお馴染みの軍服姿で姿を現した時、一堂は敬意を示すために起立して総司令官を迎える。   
 ワシントンは、テーブルの料理を盛んに士官達に勧めたが自分はほとんど食べなかった。グラスが士官達の手に配られ、ワインが満たされる。グラスを掲げながらワシントンは話し始める。声はこみ上げてくる思いで震えていた。 
「心一杯の愛と感謝の念を持って、諸君に別れを告げる。これまでの日々が栄光と誉れに満ちていたように、諸君のこれからの日々が順調で幸せなものとなるように強く願う」    
 士官達とともに乗り越えてきた8年間の苦難が一気に蘇ったのか。ワシントンの目には涙が光っている。涙を拭いながらワシントンはようやく言葉を繋ぐ。 
 「私はあなた達一人ひとりに別れを告げに行くことができませんが、もしあなた達が私のもとに来てくれて握手してくれればありがたく思います」     
 最初に進み出たのはノックスである。この太鼓腹の元書店主は戦争開始当初からワシントンの下で働き常に忠実であった。感極まったワシントンは自らの言葉を裏切る。握手だけで済ませることはできず、無言のままノックスを固く抱き締めて接吻する。その間、2人の頬を涙が濡らしていた。 
 次に進み出たのはシュトイベンである。この自らを貴族だと主張する男は、フォージ渓谷で大陸軍を鋼の軍隊に変えた。シュトイベンもノックスと同様に総司令官の抱擁を受ける。 
 他の士官達も涙にくれながらワシントンから別れの接吻を受けた。その場に居合わせた者達はこの心の籠った別れの情景に心を打たれて誰も沈黙を破る者はいなかった。 
 こうした情景からワシントンがその冷静沈着な仮面の下に熱い感情を持っていることが分かる。しかもワシントンはそうした感情を、威厳を損なうことなく示すことができた。この別れの饗宴で示したワシントンの姿勢は、どのような雄弁よりも士官達の心を打ったに違いない。    
 士官達の列が途切れた後、ワシントンは部屋を横切り、静かに手を掲げて別れの時が来たことを示す。そして、まったく後ろを振り返ることなくワシントンは部屋を出て行った。まるで魔法にでもかけられたように士官達は黙って総司令官の姿が消えた先を見つめていた。