ミュージカル『ハミルトン』に登場する建国の父祖たちと比べるとどうか。ワシントン、ジェファソン、マディソンはいずれもヴァージニアの大農園主に属する。恵まれた出自である。ジョン・ローレンスも富裕な家に生まれ、最高の教育を受けている。フランクリンも貧賤から身を起こしたがそれでもハミルトンより恵まれていただろう。
ハミルトンが飛び込んだ新天地アメリカだが、イギリス本国よりも緩やかであったとはいえ階級がなかったわけではない。確かにアメリカにはイギリス本国からたまにやって来る本物の貴族を除けば、貴族は存在しない。しかし、実質的に貴族と言えるような名家は存在した。
ニュー・ヨークでは大土地所有者が多くの借地農を支配していた。スカイラー家もそうした支配階層に属した。
独立戦争が始まるとスカイラーは将軍の一人としてニュー・ヨークに睨みを効かしている。将軍は軍事的才能だけではなく政治的バランスも考慮して選ばれたので、スカイラー家が強い影響力を持っていたことがうかがえる。
当時の結婚は家柄が物を言ったのでハミルトンがスカイラー家と婚姻関係を結ぶのは異例のことであり、言うなれば逆玉である。確かにハミルトンは独立戦争で活躍してワシントンの信頼も厚かったが、それでもスカイラー家に釣り合う存在だったとは言えない。スカイラーがハミルトンの才能を認めたことが大きいだろう。