ミュージカル『ハミルトン』の魅力

ブロードウェイ、ハミルトンが上映されているリチャード・ロジャーズ劇場

ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン―アメリカ資本主義を創った男』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。

ミュージカル『ハミルトン』は新たな建国神話と言える。18世紀の建国神話を旧約聖書とすれば、『ハミルトン』は新約聖書である。従来の建国神話は白人による白人のための建国神話であった。

建国の父祖たちの姿を思い浮かべてほしい。ほぼ例外なく白人ではないだろうか?E pluribus unum、すなわち「多を一つに」という理念はアメリカにとって重要な理念である。白人しか登場しない建国神話は、現代アメリカにおいて真の建国神話となり得るのだろうか。

『ハミルトン』のキャストを見てほしい。白人だけではない。黒人が白人の偉人の役をこなす。それはおかしなことなのだろうか。否、白人だけではなく誰もが自分のルーツだと思える建国神話を創る。そして、移民こそアメリカの活力の源だと伝えること。それが『ハミルトン』の真髄である。

今、多くのアメリカ人はかつてないほどアメリカが分断されているのではないかと危機感を覚えている。『ハミルトン』に熱狂する人々は、独立革命の風雲児ハミルトンの痛快な人生に喝采を送っているだけではなく、ハミルトンの人生で示されるアメリカ人が誇るべき価値観、そして、ハミルトンを育てて受け入れて活躍の場を与えたアメリカ社会の多様性と開放性に賛意を示しているのではないか。

劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、本サイトでは当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。

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