ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説28―Say No To This 和訳

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Maria Reynolds enters. Burr enters.


BURR:


There’s nothing like summer in the city. Someone under stress meets someone looking pretty. There’s trouble in the air, you can smell it. And Alexander’s by himself. I’ll let him tell it.

「この街の夏よりも素敵な夏はない。ストレスにさらされている者が魅惑的な誰かに会う。何だか雲行きがあやしいが、気づいているかな。アレグザンダーは自ら厄介ごとに首を突っ込んでいるようだが。さて彼は何と言うかな」


HAMILTON:

I hadn’t slept in a week. I was weak, I was awake. You never seen a bastard orphan More in need of a break. Longing for Angelica. Missing my wife. That’s when Miss Maria Reynolds walked into my life, she said:

「1週間も寝ていないよ。私は弱り切りながら起きている。これまで以上に休息を必要としている私生児の孤児を見たことがないだろう。アンジェリカが恋しい。妻が恋しい。マリア・レノルズが私の人生に踏み入ってきた。彼女は言った」


解説:いわゆるレノルズ事件である。1791年、ハミルトン一家は当時、暫定首都であったフィラデルフィアに移っていた。夏の間、イライザは子供たちとともに父スカイラーのもとへ避暑に出かけていた。そして、マリア・レノルズと名乗る女性がハミルトンの自宅にやって来た。ハミルトンは夫に捨てられたと訴えるマリアに同情してお金を渡すようになっていつしか不倫関係になった。

しばらくしてマリアは夫ジェームズと和解したと告げた。そして、助けてくれた恩人としてハミルトンをジェームズに紹介した。どうやらマリアは夫と組んで影響力のある人物に取り入ってゆすりを働こうとしていたらしい。ジェームズは財務省の職を得ようとしていたが失敗した経験を持つ。投機家の依頼を受けて公債を退役軍人から安く買い集めていた。もし公債償還計画が議会を通過すれば、公債は高騰するはずであった。それは投機家にとって大きな利益を上げる機会であった。

1791年12月15日、夫がイライザに不倫を暴露しようとしていると告げるマリアの手紙がハミルトンのもとに届いた。さらにジェームズの脅迫の手紙が届いた。事務所に乗り込んできたジェームズにハミルトンはお金を渡した。その後、ハミルトンは何度かお金をゆすり取られた。

1792年になってもハミルトンとマリアの関係は続いていた。ジェイコブ・クリングマンという男はマリアの家でハミルトンの姿を見て不審を抱いた。マリアから事情を聞いたクリングマンはハミルトンがジェームズを介して職務上、得られた知識を投機家に不正に横流しして私腹を肥やしているのではないかと疑念を持った。

しばらくしてクリングマンはジェームズと組んで連邦政府に対して詐欺を働こうとして逮捕された。何とか罪を免れようとしたクリングマンは、ハミルトンと対立する民主共和派のフレデリック・ミューレンバーグ下院議員のもとに赴いてハミルトンが不正な投機目的でレノルズにお金を渡していたと訴えた。

ミューレンバーグはジェームズ・モンロー上院議員とエイブラハム・ヴェナブル下院議員とともにジェームズを尋問しようとした。しかし、ジェームズは姿を消した後であった。そこで3人はハミルトンに直接事情を問い質した。ハミルトンは職務上の不正について否定したが、驚くべきことにマリアとの不倫を自ら暴露した。ジェームズにお金を渡していたのは、不正な投機目的でお金を渡していたわけではなく、個人的な不倫をもとにゆすられていただけだと証明するためであった。こうした弁明を受けたモンロー達は告発を見送った。ハミルトンの告白を聞いた3人は口外しない旨を誓約した。そして、モンローが証拠文書の写しを預かった。

『1796年のアメリカの歴史』という本が出版されて物議を醸した。この本はハミルトンの不倫問題を公に暴露しただけではなく、それが汚職と関係していることを示唆していた。そこでハミルトンはいわゆる『レノルズ・パンフレット』で自ら不倫問題について認めて、汚職とはまったく無関係だと釈明した。

ハミルトンは不倫の証拠文書をモンローが『1796年のアメリカの歴史』の作者に横流ししたのではないかという疑いを抱いた。この問題をめぐるハミルトンとモンローの確執は決闘寸前まで紛糾したが、幸いにも決闘は立ち消えになった。モンローは生涯にわたって証拠文書を横流しした事実はないと一貫して否定している。


MARIA REYNOLDS:

I know you are a man of honor, I’m so sorry to bother you at home But I don’t know where to go, and I came here all alone.

「私はあなたが有名人だと知っています。あなたのお宅にお邪魔してすいません。でも私はどこに行けばわからなかったのです。私はここに独りで来ました」


HAMILTON:

She said:

「彼女は言った」


MARIA:

My husband’s doin’ me wrong Beatin’ me, cheatin’ me, mistreatin’ me. Suddenly he’s up and gone I don’t have the means to go on.

「私の夫は私にひどいことをします。私をぶったり、だましたり、ぞんざいに扱ったり。夫が突然、姿を消したせいで私は暮らしていけません」


HAMILTON:

So I offered her a loan, I offered to walk her home, she said:

「私は彼女にお金を貸して彼女の家に行くことにした。彼女は言った」


MARIA:

You’re too kind, sir

「あなたは親切ですね」


HAMILTON:

I gave her thirty bucks that I had socked away, She lived a block away, she said:

「私は彼女にしのばせていた30ドル渡した。彼女は1ブロック先に住んでいた。彼女は言った」


解説:こうした記述は『レノルズ・パンフレット』による。


MARIA:

This one’s mine, sir:

「これを私にですか」


HAMILTON:

Then I said, “Well, I should head back home,” She turned red, she led me to her bed Let her legs spread and said:

「それから私が『私は家に戻らないと』と言うと、彼女は頬を赤らめて私をベッドに誘い、足を広げて言った」


解説:ミランダによればハミルトンはこの瞬間について「話し合いが少し続いた後、金銭的な補償が受け入れられることがすぐに明らかになった」と述べている。


MARIA:

Stay?

「どうしますか」


HAMILTON:

Hey

「おいおい」


MARIA:

Hey

「ねえ」


HAMILTON:

That’s when I began to pray: Lord, show me how to Say no to this I don’t know how to Say no to this. But my God, she looks so helpless And her body’s saying, “Hell, yes.”

「その時、私は祈り始めた。神よ、どうすれば否と言えるのか私に教えてください。どうすれば否と言えるのか。ああ神よ、彼女はとても頼りなく見えます。そして、彼女の肉体は『さあいいわよ』と言っているのです」


MARIA: 

Whoa...

「さあさあ」


HAMILTON:

Nooo, show me how to

「ああ、どうすればいいか教えてほしい」


HAMILTON, ENSEMBLE:

Say no to this.

「どうすれば否と言えるのか」


HAMILTON:

I don’t know how to

「どうすればいいかわからない」


HAMILTON, ENSEMBLE:

Say no to this.

「どうすれば否と言えるのか」


HAMILTON:

In my mind, I’m tryin’ to go

「心の中で私は行ってしまえと思っている」


ENSEMBLE:

Go! Go! Go!

「行ってしまえ。行ってしまえ。行ってしまえ」


HAMILTON:

Then her mouth is on mine, and I don’t say.

「それから彼女の唇と私の唇が重なり、私は何も言えない」


ENSEMBLE:

No! No! Say no to this! No! No! Say no to this! No! No! Say no to this! No! No! Say no to this!

「否、否、否と言おう。否、否、否と言おう。否、否、否と言おう。否、否、否と言おう」


Hamilton & Reynolds kiss and embrace.


HAMILTON:

I wish I could say that was the last time. I said that last time. It became a pastime. A month into this endeavor I received a letter From a Mr. James Reynolds, even better, it said:

「これで最後だと言えればよいのに。これで最後だと言えれば。気晴らしにすぎなかったのだと。何とかしようと一カ月もしている間に私はまさにそのジェームズ・レノルズから手紙を受け取った。手紙に書いてあったこと」


Lights up on James Reynolds.


JAMES REYNOLDS:

Dear Sir, I hope this letter finds you in good health, And in a prosperous enough position to put wealth In the pockets of people like me: down on their luck. You see, that was my wife who you decided to

「拝啓、あなたがこの手紙を読んでご健勝となるように祈ります。私のように落ちぶれた者たちの富をポケットに入れられるような地位でうまいことやれるように祈ります。お分かりでしょうが、私の妻をあなたが・・・」


HAMILTON:

Fuuuu—

「むむむ・・・」


JAMES REYNOLDS:

Uh-oh! You made the wrong sucker a cuckold. So time to pay the piper for the pants you unbuckled And hey, you can keep seein’ my whore wife If the price is right: if not I’m telling your wife.

「あのな、あんたはおバカなカモを寝取られ男にしたんだぞ。あんたがずり下したパンツのつけを払う時だぞ。それでもしきちんとお金を払うなら俺のふしだらな妻に会い続けてもいいけどな。もしきちんとお金を払わなければあんたの妻に言いつけるぞ」


HAMILTON:

I hid the letter and I raced to her place, screamed “How could you?!” in her face she said:

「私は手紙を隠して彼女の所へ飛んで行って『君はどうしたいんだ』と彼女に向かって叫んだ。彼女は言った」


MARIA:

No, sir!

「いいえ」


HAMILTON:

Half dressed, apologetic. A mess, she looked Pathetic, she cried:

「彼女は肩脱ぎで弁解する。混乱して感傷的になって彼女は言った」


MARIA:

Please don’t go, sir.

「行かないで」


HAMILTON:

So was your whole story a setup?

「すべて君の作り事だったのかい」


MARIA:

I don’t know about any letter.

「そんな手紙のことは知らないわ」


HAMILTON:

Stop crying goddamn it, get up.

「もういいから泣くのを止めて立つんだ」


MARIA:

I didn’t know any better.

「どうすればいいかわからないわ」


HAMILTON:

I am ruined.

「私は破滅だ」


MARIA:

Please don’t leave me with him helpless.

「私を彼とともに独りにしないで」


HAMILTON:

I am helpless—how could I do this?

「私はどうしたらいいかわからない。いったい何ができる」


MARIA:

Just give him what he wants and you can have me.

「夫が望むものを与えるだけでいいのよ。そうすれば私はあなたのもの」


HAMILTON:

I don’t want you. I don't want you. I don't...

「私は君なんかほしくない。ほしくないんだ。私は・・・」


MARIA:

Whatever you want If you pay, You can stay. 

「あなたがお金を払うなら望むがままよ。あなたの思い通りよ」


HAMILTON:

Lord, show me how to Say no to this. I don't know how to Say no to this.

「神よ、どうすれば否と言えるのか私に教えてください。どうすれば否と言えるのか」


MARIA:

Tonight Helpless. Whoa! How can you say no to this?

「今夜は寂しいわ。ねえ、あなたはどうすれば否と言えるの」


HAMILTON:

Cuz situation's Helpless. And her body's Screaming hell yes. No, show me how to say no to this. How can I Say no to this? There is nowhere I can go. When her body's on mine I do not say...

「状況は絶望的だ。そして、彼女の肉体はさあいいわよと言っている。いやどうすれば否と言えるのか。どうすれば否と言えるのか。もうどうしようもない。彼女が私にしなだれかかれば、もう私は何も言えない・・・」


ENSEMBLE:

Say no to this! Say no to this! Say no to this! Say no to this! Go! Go! Go! No! No!

「否と言おう。否と言おう。否と言おう。否と言おう。行ってしまえ。行ってしまえ。行ってしまえ。否。否」


They kiss. It escalates.


HAMILTON:

Yes. Yes. Yes. Yes.

「ああ、ああ、ああ、ああ」


MARIA:

Yes! Yes! Yes! Yes!

「ええ、ええ、ええ、ええ」


ENSEMBLE:

Say no to this! No! No! Say no to this! No! No! Say no to this! No! No!

「否と言おう。否。否。否と言おう。否と言おう。否。否。。否と言おう。否。否」


HAMILTON:

Say no to this, I—Don't say no to this, There is nowhere I can go.

「否と言おう。でも私は・・・否と言えない。もうどうしようもない」


MARIA:

Don’t say no to this.

「否と言えない」


ENSEMBLE:

Go go go...

「行ってしまえ。行ってしまえ。行ってしまえ」


James Reynolds swaggers in.


JAMES REYNOLDS:

So?

「それで」


Hamilton pays James Reynolds.


HAMILTON:

Nobody needs to know.

「誰にもこのことを明かしてはいけない」


Hamilton walks away from them both. Burr enters.


ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説29―The Room Where It Happens 和訳

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