ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説27―Take A Break 和訳

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Eliza joins young Philip Hamilton at the piano.


ELIZA:

Un deux trois quatre Cinq six sept huit neuf. Good! Un deux trois quatre Cinq six sept huit neuf.

「1、2、3、4、5、6、7、8、9。いいわよ。1、2、3、4、5、6、7、8、9」


PHILIP HAMILTON:

Un deux trois quatre Cinq six sept huit neuf. Un deux trois quatre Cinq six sept huit neuf.

「1、2、3、4、5、6、7、8、9。1、2、3、4、5、6、7、8、9」


He sings the last three notes differently. Eliza corrects him, but he sings it his way.


ELIZA:

Sept huit neuf—Sept huit neuf—

「7、8、9—7、8、9—」


PHILIP:

Sept huit neuf—Sept huit neuf—

「7、8、9—7、8、9—」


ELIZA AND PHILIP:

One two three four five six seven eight nine!

「1、2、3、4、5、6、7、8、9」


In an adjacent room, Hamilton composes a letter.


HAMILTON:

My dearest, Angelica “Tomorrow and tomorrow and tomorrow Creeps in this petty pace from day to day.” I trust you’ll understand the reference to another Scottish tragedy without my having to name the play They think me Macbeth, and ambition is my folly. I’m a polymath, a pain in the ass, a massive pain. Madison is Banquo, Jefferson’s Macduff And Birnam Wood is Congress on its way to Dunsinane.

「わが最愛なる人、アンジェリカ、『明日、明日、明日と日々が少しずつ進む[訳注:マクベスの引用]』。わざわざ名前を挙げなくてもスコットランドの悲劇について言っているとわかるはず。私はマクベスだと思われている。そして、野心は私の愚行だと。私はいろいろと知っていていろいろと引っ掻き回す。本当にいろいろと。マディソンはバンクォー、ジェファソンはマクダフ、そして、連邦議会はダンシネインに向かう途中のバーナムの森だ」


解説:この部分はシェークスピアの『マクベス』を下敷きにしている。野心のために身を亡ぼすマクベスとハミルトンの人生が重ねられている。

バンクォーは「その子がスコットランドの王になる」という予言のためにマクベスに殺された。これはどのようにマディソンと関係しているのか。ハミルトンの財政政策を阻止しようとマディソンは下院で奮闘したが失敗して、一時期、政治的に死んだと言われた。しかし、後に民主共和派の領袖として政治の中枢を握って大統領になっている。

マクダフはマクベスを倒した貴族である。ワシントン政権で対立していたジェファソンは1800年の大統領選挙で勝利して大統領になった。それはハミルトンにとって政治的な死を意味する出来事であった。肉体的にハミルトンを殺したのはバーであるが、政治的にハミルトンを殺したのはジェファソンである。

「連邦議会はダンシネインに向かう途中のバーナムの森」という部分の解釈だが、ダンシネインはマクベスの居城があったと言われる丘である。魔女の予言によれば、「バーナムの森が動かない限りマクベスは敗れない」という。ハミルトンは連邦議会に大きな影響力を及ぼすことで諸政策を実現したが、しだいにその影響力を失って政治的な死に追い込まれることになる。


HAMILTON, ANGELICA:

And there you are, an ocean away Do you have to live an ocean away? Thoughts of you subside Then I get another letter I cannot put the notion away…

「君は海の向こうにいる。どうして君は海の向こうに住んでいるのか。君への思いを断ち切りたい。でもまた手紙を受け取ったら君のことが頭から離れない・・・」


Eliza enters.


ELIZA:

Take a break.

「ちょっと休憩したらいかが」


HAMILTON:

I am on my way.

「まだ途中なんだ」


ELIZA:

There’s a little surprise before supper And it cannot wait.

「夕食前にちょっとしたサプライズがあるわよ。お楽しみに」


HAMILTON:

I’ll be there in just a minute, save my plate.

「あともう少しで行くよ、私の分も残しておいてくれよ」


ELIZA:

Alexander—

「アレグザンダー」


HAMILTON:

Okay, okay—

「わかった、わかった」


ELIZA:

Your son is nine years old today. Has something he’d like to say He’s been practicing all day Philip, take it away—

「あなたの息子は今日、9才になりました。言いたいことがあるのよ。一日中、練習していたんだから。フィリップ、さあやってごらん」


PHILIP:

Daddy, daddy, look—My name is Philip I am a poet I wrote this poem just to show it. And I just turned nine. You can write rhymes but you can’t write mine.

「お父さん、お父さん、僕はフィリップ、詩人だよ。詩を書いたから披露するよ。僕は9才になったばかり。僕の詩よりも素敵な詩はきっと書けないよ」


HAMILTON:

What! Uh-huh! Okay! Bravo!

「よし、いいぞ、いいぞ」


PHILIP:

I practice French and play piano with my mother. I have a sister but I want a little brother. My daddy’s trying to start America’s bank. Un deux trois quatre cinq!

「僕はフランス語とピアノをお母さんと一緒に練習しているよ。僕には妹がいるけど、弟も欲しいな。お父さんはアメリカの銀行を始めようとしています。1、2、3、4、5」


解説:「アメリカの銀行」とは第1合衆国銀行のことである。


ELIZA:

Take a break.

「ちょっと中断」


HAMILTON:

Hey, our kid is pretty great.

「ああ私たちの子供はなんてすごいんだろう」


ELIZA:

Run away with us for the summer. Let’s go upstate.

「夏はどんどん過ぎ去っているわ。ニュー・ヨークの北に行きましょうよ」


HAMILTON:

Eliza, I’ve got so much on my plate.

「イライザ、私にはやらないといけないことがたくさんある」


ELIZA:

We can all go stay with my father. There’s a lake I know…

「みんなで父のもとに行くのよ。湖があったでしょ・・・」


HAMILTON:

I know.

「知っているよ」


ELIZA:

In a nearby park.

「近くの公園にね」


HAMILTON:

I’d love to go.

「行きたいね」


ELIZA:

You and I can go when the night gets dark…

「暗くなる前にあなたと私で行きたいの」


HAMILTON:

I will try to get away.

「行けるかどうか何とかやってみるよ」


Fade up on Angelica. She is writhing a response to Hamilton's letter. 


ANGELICA:

My dearest Alexander, You must get through to Jefferson Sit down with him and compromise. Don’t stop ‘til you agree Your fav’rite older sister, Angelica, reminds you There’s someone in your corner all the way across the sea. In a letter I received from you two weeks ago I noticed a comma in the middle of a phrase. It changed the meaning. Did you intend this? One stroke and you’ve consumed my waking days It says:

「わが親愛なるアレグザンダー、あなたはジェファソンとうまくやっていかないといけないわ。彼と一緒に座って折り合わないと。何とか折り合えるまで諦めちゃだめよ。あなたの親愛なる義姉アンジェリカはあなたに思い出させるわ。あなたが荒れ狂う海を行く時はいつでもそばに誰かがいるとね。2週間前に受け取った手紙で私は文の途中でコンマがあるのに気づいたわ。それはすごい違いよ。わざとやったの。たった一筆であなたは私を日々、やきもきさせたのよ」


Fade up on Hamilton, reading the letter.


HAMILTON, ANGELICA: 

“My dearest Angelica.”

「わが最愛なるアンジェリカ」


ANGELICA:

With a comma after “dearest.” You’ve written

「あなたは『最愛なる』の後ろにコンマをつけたわ」


HAMILTON AND ANGELICA:

“My dearest, Angelica.”

「わが最愛の人、アンジェリカ」


解説:文法的に“My dearest Angelica.”は、最愛なる人の中の1人であるアンジェリカといった意味合いになる。それに対して“My dearest, Angelica.”は最愛なる人は一人だけでそれがアンジェリカといった意味合いになる。したがって、コンマをつけたほうが愛情が強いと解釈できる。

ミランダによれば、「アレグザンダーとアンジェリカの実際の手紙に基づいている」という。


ANGELICA:

Anyway, all this to say I’m coming home this summer At my sister’s invitation, I’ll be there with your fam’ly If you make your way upstate. I know you’re very busy I know your work’s important But I’m crossing the ocean and I just can’t wait.

「とにかく今年の夏に私は帰郷することは伝えておくわ。もしあなたが家族と一緒にニュー・ヨークの北部に行くなら私も妹の招きで私も行くわ。あなたが忙しいことは知っているし、あなたの仕事が重要なものだと知っているわ。でも私は海を渡るのよ。待ちきれないわ」


解説:フィリップは1782年1月22日生まれ、9才の誕生日は1791年1月22日である。アンジェリカの一時帰国は1789年3月から11月なので辻褄が合わない。さらにジェファソンが帰国して国務長官に着任するのはアンジェリカの一時帰国が終わった後である。したがって一時帰国前にジェファソンとうまくやっていくようにアンジェリカがハミルトンに諭すというのも辻褄が合わない。


HAMILTON, ANGELICA:

You won’t be an ocean away. You will only be a moment away.

「あなたはずっと海の向こうにいるわけじゃない。きっと一時的に離れているだけ」


Eliza calls from the other room.


ELIZA:

Alexander, come downstairs. Angelica’s arriving today! 

「アレグザンダー、下に降りてきて。アンジェリカが今日、到着するのよ」


Angelica enters.


ELIZA:

Angelica!

「アンジェリカ」


ANGELICA:

Eliza!

「イライザ」


They embrace. Hamilton enters.


HAMILTON:

The Schuyler sisters!

「スカイラー姉妹」


ANGELICA:

Alexander.

「アレグザンダー」


HAMILTON:

Hi.

「やあ」


ANGELICA:

It’s good to see your face.

「あなたの顔を見れて嬉しいわ」


ELIZA:

Angelica, tell this man John Adams spends the summer with his family.

「アンジェリカ、ジョン・アダムズが夏を家族とともに過ごしていることをこの人に教えてやってよ」


HAMILTON:

Angelica, tell my wife John Adams doesn’t have a real job anyway.

「アンジェリカ、ジョン・アダムズにはほとんど何も仕事がないと妻に教えてやってほしい」


解説:当時、アダムズは副大統領であった。副大統領の仕事は上院で議長をすることにしかなく、閑職とみなされていた。事実、アダムズはワシントン政権の運営にほとんど関与していない。


ANGELICA:

…You’re not joining us? Wait.

「あなたは私たちと一緒に来ないの。本当に」


HAMILTON:

I’m afraid I cannot join you upstate.

「君たちと一緒にニュー・ヨークの北に行けないのではと心配している」


ANGELICA:

Alexander, I came all this way.

「アレグザンダー、せっかく私が来たというのに」


ELIZA:

She came all this way—

「せっかく姉さんが来たのに」


ANGELICA:

All this way—

「はるばるここまで・・・」


ELIZA, ANGELICA:

Take a break.

「休みましょうよ」


HAMILTON:

You know I have to get my plan through Congress.

「議会に通さないといけない政策があるんだよ」


解説:1789年当時、ハミルトンは翌年に提出する公債償還計画に関する報告をまとめていた。


ELIZA AND ANGELICA:

Run away with us for the summer. Let’s go upstate.

「夏はどんどん過ぎ去っているわ。ニュー・ヨークの北に行きましょうよ」


HAMILTON:

I lose my job if I don’t get this plan through Congress.

「もしこの政策を議会に通せなかったら私は首になってしまうよ」


ELIZA, ANGELICA:

We can all go stay with our father.

「私たちはみんなで父とずっといたいの」


解説:当時、スカイラー姉妹の父フィリップは痛風に悩まされていた。


ELIZA:

There’s a lake I know. In a nearby park. You and I can go Take a break And get away—Let's go upstate Where we can stay. Look around, look around, At how lucky we are to be alive right now—We can go—When the night gets dark. Take a break.

「湖があったでしょ。近くの公園にね。あなたと私は何も思い煩うことなくお休みするの。ニュー・ヨークの北部に行ってゆっくりしましょう。周りを見てごらんなさいよ、周りを見てごらんなさいよ、私達が今、生きていることがどんなに幸運なことか。行きましょう。暗くなってきたらお休みすればいいのよ」


ANGELICA:

I know I’ll miss your face—Screw your courage To the sticking place—Eliza’s right—Take a break. Run away with us for the summer—Let’s go upstate. We can all go stay with our father, If you take your time—You will make your mark. Close your eyes and dream—When the night gets dark. Take a break.

「あなたの顔が見れないとさびしいわ。勇気をぎりぎりまで振り絞るのよ[訳注:『マクベス』に登場するマクベス夫人の台詞]。イライザが正しいわ。ちょっと休みましょう。夏はどんどん過ぎ去っているわ。ニュー・ヨークの北部に行きましょうよ。もしあなたが時間がとれるなら私たちはみんなで父とずっといたいの。あなたはきっとうまくいくわ。目を閉じて夢を見るの。暗くなってきたらお休みすればいいのよ」


解説:『マクベス』からの引用についてミランダもこの歌詞の最初に対応する形でここに引用したと説明している。また『美女と野獣』でも同様な引用があると述べている。


HAMILTON:

I have to get my plan through Congress. I can’t stop ’til I get this plan through Congress.

「議会に通さないといけない政策があるんだよ。この政策が議会を通るまで私は休んでいられないんだ」


ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説28―Say No To This 和訳

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