ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説26―Cabinet Battle #1和訳

原文&和訳のみ解説なし⇒ミュージカル『ハミルトン』Cabinet Battle #1和訳


Microphones emerge.


WASHINGTON: 

Ladies and gentlemen, you coulda been anywhere in the world tonight, but you’re here with us in New York City. Are you ready for a cabinet meeting???

「淑女紳士の皆様、今日は世界中のどこよりもわざわざニュー・ヨークの我々のもとにお越しいただきありがとうございます。閣議の準備はよろしいかな」


解説:憲法には閣僚や閣議に関する規定はない。単に大統領は行政府の役人から意見を徴することができると定められているだけである。政権発足当初、ワシントンは閣僚の一人ひとりから書面で意見を求める形式を採用していたが、大統領官邸に閣僚を全員集めて政策を協議するようになった。それが閣議の始まりである。

最初に記録された閣議は1791年11月26日に開かれている。ただ「閣僚」という言葉が一般に広まったのは1793年以降である。さらに閣僚制度が法により公式に認定されたのは実に1907年のことである。


The Company cheers.


WASHINGTON: 

The issue on the table: Secretary Hamilton’s plan to assume state debt and establish a national bank. Secretary Jefferson, you have the floor, sir.

「さあ議題だ。公債償還と合衆国銀行設立に関するハミルトン財務長官の計画だ。ではジェファソン国務長官、発言を」


解説:ハミルトンの公債償還計画


ワシントンが就任した当初、連邦政府の対外負債だけでも約1,000万ドルを超過し、利子の支払いだけでも年間約150万ドルを要した。ハミルトンの見積りでは、合衆国の市民に対してさらに約2,700万ドルの債務があった。当時の連邦政府の予算が1,000万ドルに満たないことを考えると、いかに莫大な額か分かる。

未だに償還されていない公債は、新たな一歩を踏み出したアメリカにとって深刻な危機である。国際社会と自国市民からの信用を得るために債務の履行は不可欠だ。国家の信用を築くことは、ワシントン政権が取り組むべき最優先課題である。

そこでハミルトンは、連邦政府の信用を築く方策を練る。ハミルトンが参考にしたのはイギリスの制度であった。イギリスは17世紀末にイングランド銀行を設立している。そして、蒸留酒への課税を原資に公債を償還している。つまり、特定の財源を明示することで債権者の信用を得た。

その後、イギリスの国債は増加の一途を辿った。国債の増加は国の借金が増えるわけだから国力の低下をもたらす悪弊だと見なされるかもしれない。しかし、事実はそうではなかった。国債は広く民間に流通して担保として活用され、投資を刺激した。その結果、経済は活性化する。

国家の保証という裏付けを持つ国債は莫大な信用を生む。そして、国家に恩恵をもたらす。そうした経済力を背景にイギリスは海軍を増強して世界帝国として覇を唱えた。

憲法は精神であり、金融制度は肉体である。精神と肉体が両方機能しなければ実体として国家は存立できない。また金融制度は国家にとって心臓である。お金という血液を全身に行き渡らせ国家を動かす。ハミルトンはそれを知悉していた稀有な人材であった。

連邦議会は財務省を統制下に置こうとしたが、ハミルトンはそれに甘んじるような長官ではなかった。積極的に財務長官の職権を行使するハミルトンの手法は、立法府ではなく行政府が経済政策を主導するという前例を確立した。財務省が経済政策を主導することで連邦政府は財政政策の効率性と一貫性を獲得できる。それは、立法府こそ政策形成の中心を担うべきだと多くの人々が考えていた時代にあって極めて革新的であった。ハミルトンの面目躍如たるものがある。

公債償還計画の骨子は以下の通りである。まず公債を額面価格で償還しなければならない。それが国家の信用を築く最も重要な点である。次に公債償還の基本的な概念として、一括で公債を償還する必要はないし、そもそもそれは不可能である。一括で償還しなくても、毎年、政府が歳入から一定額を公債償還のために取り分けることで十分に公的信用を獲得できる。そうした概念に基づいて、延滞利息が付いた外債と短期内債を額面価格で長期公債に借り換え、輸入税と物品税で得られる歳入で利息と元金を償還する。償却積立金を設け、もし公債が額面価格を下回れば、積立金を取り崩して公債を買い取って価格の維持を図る。

さらに連邦政府が負うべき公債のみならず、独立戦争時の約2,500万ドルにのぼる州債も連邦政府が引き受ける。「この点について熟慮を重ねた結果、財務長官は、連邦がそれらの州債を引き受け、連邦の公債と同様の措置を取ることが健全な政策と実質的な正義に適う方策になると確信する」とハミルトンは記している。州債の引き受けはまず公債の整理にとって好都合である。各州がそれぞれ償還計画を立てるよりも連邦政府が一括で償還計画を立てたほうが効率的に処理できるうえに信用も得やすい。

そして、そうした事務的な目的に加えてさらに重要な政治的な目的がある。州債は債務者である州政府と債権者である市民を結び付ける紐帯であった。州債を連邦が引き受けることによって、連邦が新たに債務者となる。そうすることで債権者である市民から連邦政府への忠誠と支持が期待できる。人間はお金を貸している相手が破滅することを望まない。もし相手が破滅してしまえば、お金が返ってこないからだ。たとえそのような形であっても、未だに礎が築かれていない連邦政府を支えるために市民との何らかの絆が必要である。

そのうえ州政府が州債に悩まされることがなくなれば、多くの税収を必要としなくなり、連邦政府の輸入関税に対する独占的な課税権に対して異議を唱えることもなくなる。連邦政府に課税権を与えることは憲法反対派が権利章典の欠如とともに強く反対していた点であった。連邦が州債を肩代わりすれば、憲法反対派は反対論を唱える強力な根拠を失う。いずれにせよ州債の引き受けは、連邦政府を強化する策として有効である。

さらに額面での償還を常時保証した新規公債を発行することで、実質的な通貨を流通させることをハミルトンは目指した。その当時、アメリカには統一した通貨がなかった。

ハミルトンによれば、独立戦争後に経済を麻痺させた地価下落の原因は流動資本の不足である。土地を購入できる十分な資本が手元になければ、土地売買が沈滞するのは自明の理である。公債を流通させて投資の担保として利用できるようにすれば、経済が活性化される。 

財政の健全化を図ることで、第一に人民との絆を築き、第二に関税を課す権限を州から連邦に穏健に移し、第三に経済の発展に不可欠な流動資本を提供するという一石三鳥の計画である。これ程、見事な政策はない。

さらにハミルトンは合衆国銀行設立を提唱している。独立戦争終結後、アメリカは再び慢性的な通貨不足に悩まされた。公債償還計画によって流動資本が確保されたが、それでもまだ不十分であった。ハミルトンはそうした問題点を十分に認識していた。イングランド銀行を模倣した合衆国銀行の設立。それがハミルトンが出した解決策である。

合衆国銀行が通貨を発行して流動資本を供給する。さらに中央政府の財政管理や銀行業の統制など様々な金融機能を果たす。もう少し具体的に言えば、徴税業務、政府資金の出納、必要に応じた短期信用の供与、銀行株の販売などを通じて実業の発展を促し、公債の価格を維持して国家の信用を維持する。

ハミルトンは財務長官に就任する前から中央銀行の必要性を認識していた。ハミルトンの机の上には、イングランド銀行の特許の写しが常に置かれていたという。早くも1780年にハミルトンは、中央銀行の設立と財務官の設置を大陸会議に勧める文書を書いている。


JEFFERSON: 

"Life, liberty and the pursuit of happiness." We fought for these ideals; we shouldn’t settle for less. These are wise words, enterprising men quote ‘em. Don’t act surprised, you guys, cuz I wrote ‘em.

「我々は『生命、自由、そして、幸福追求』といった理想のために戦った。我々は少しでも理想から外れてはだめです。こうした言葉は立派な言葉だから優れた人々が引用するでしょう。驚くなかれ、それを書いたのは私です」


解説:ここでジェファソンが言及しているのは独立宣言である。ジェファソンは、独立宣言の起草者であることを生涯、誇りに思っていた。


JEFFERSON, MADISON: 

Owwwwwwwwww.

「おー」


JEFFERSON: 

But Hamilton forgets His plan would have the government assume state’s debts. Now, place your bets as to who that benefits The very seat of government where Hamilton sits.

「ハミルトンは、自分の計画が連邦政府に州債も引き受けさせることを見落としている。さあ、賭けてみよう。ハミルトンが座っている政府の中枢から誰が利益を得るのか」


HAMILTON: 

Not true!

「いや、そんなことはない」


JEFFERSON: 

Ooh, if the shoe fits, wear it. If New York’s in debt—Why should Virginia bear it? Uh! Our debts are paid, I’m afraid. Don’t tax the South cuz we got it made in the shade. In Virginia, we plant seeds in the ground. We create. You just wanna move our money around. This financial plan is an outrageous demand. And it’s too many damn pages for any man to understand. Stand with me. In the land of the free. And pray to God we never see Hamilton’s candidacy. Look, when Britain taxed our tea, we got frisky. Imagine what gon’ happen when you try to tax our whisky.

「思い当たることはないかな。もしニュー・ヨーク州が公債を抱えているなら、どうしてそれをヴァージニア州が負わなければならないのか。すまないが、我々、ヴァージニア州は負債を完済しているはずだ。我々はうまく負債を返済したのだから南部に課税しようとするな。ヴァージニアで我々は地面に種を蒔く。我々は作物を育てる。ただお金を転がすのをお望みか。この財政計画は法外な要求だ。あまりに頁が多すぎて誰も理解できないさ。私に支持を。この自由の地で。そして、ハミルトンがでしゃばらないように神に祈ろう。イギリスが紅茶に課税した時、一騒動ありました。もしウィスキーに課税すればどうなるか想像して下さい」


解説:州債引き受けに関する大きな問題点は、独立戦争中に負った公債の額が各州によって大幅に違う点に加えて、返済がどこまで進んでいるかも異なっていたという点である。

ジェファソンは大農園主という立場から農本主義を信奉していた。そうした立場からすれば、ニュー・ヨークの投機家はお金を転がしているだけで利益を得ている悪しき存在であった。

ハミルトンが議会に提出した公債償還計画はあまりに膨大な量で、その内容を精査できる者はほとんどいなかった。

ジェファソンが言う「一騒動」とはボストン茶会事件のことである。ハミルトンは公債償還の財源としてウィスキーへの課税を提案している。当時、ウィスキーは単なる嗜好品ではなかった。西部で産するトウモロコシはそのままでは運搬に不便である。そこでトウモロコシからウィスキーを作る。そうすれば運搬に便利なうえに腐る心配もない。西部では、ウィスキーの樽が通貨代わりに通用していたので課税は強い反感を買った。その結果、課税に反対する者達によってウィスキー反乱が引き起こされた。


WASHINGTON: 

Thank you, Secretary Jefferson. Secretary Hamilton, your response.

「ありがとう、ジェファソン長官。ハミルトン長官、何か反論は」


解説:ハミルトンとジェファソンが対立を深める中、ワシントンは何とか二人を仲裁しようとした。


HAMILTON: 

Thomas. That was a real nice declaration. Welcome to the present. We’re running a real nation. Would you like to join us, or stay mellow, Doin’ whatever the hell it is you do in Monticello? If we assume the debts, the Union gets a new line of credit, a financial diuretic. How do you not get it? If we’re aggressive and competitive. The union gets a boost. You’d rather give it a sedative? A civics lesson from a slaver. Hey neighbor. Your debts are paid cuz you don’t pay for labor. “We plant seeds in the South. We create.” Yeah, keep ranting. We know who’s really doing the planting. And another thing, Mr. Age of Enlightenment, Don’t lecture me about the war, you didn’t fight in it. You think I’m frightened of you, man? We almost died in a trench While you were off, getting high with the French. Thomas Jefferson, always hesitant with the President Reticent—there isn’t a plan he doesn’t jettison. Madison, you’re mad as a hatter, son, take your medicine. Damn, you’re in worse shape than the national debt is in, Sittin’ there useless as two shits. Hey, turn around, bend over, I’ll show you where my shoe fits.

「トマス。実に素敵な宣言だったね。今の時代にようこそ。我々は今、国を実際に運営しているんだ。我々と一緒にやっていきたいのか、それともお気楽にやっていきたいのか。モンティセロで好きなように何でもやっていればいいのでは。もし我々が州債を肩代わりできれば、連邦は信用を得る。財政の利尿剤だ。信用なしであなたはどうやっていくんだ。もし我々が積極的になれば、連邦はうまくいく。あなたはそれよりも鎮静剤を与えようというのか。奴隷所有者からの教訓。やあ親しい隣人よ。労働に対価を払っていないからあなたは債務を支払える。『我々は南部で種を植える。我々は作物を育てる』。戯言を続けていればいいさ。我々は、いったい誰が種を植えているのか知っている。それに啓蒙時代の代表たるジェファソン氏よ、戦ったこともないのに私に戦争について講釈を垂れようとは。私があなたを恐れるとでも。あなたがあちらへ行ってフランス人と浮かれている間に我々は塹壕で死にかけていた。トマス・ジェファソン、いつも大統領に対してよそよそしい。話したがらない。ジェファソンが諦めてしまう方策などないのだ。マディソン、もう気が狂わんばかりだね、お大事に。公債よりもどうやら悪い具合のようだね。二人してそこでぼんやり座っているがいいさ。ほらあっちを向いてけつを見せな、靴を突っ込んでやるからな」


解説:ハミルトンは、ジェファソンの理想主義的な面を皮肉っている。モンティセロは世界遺産でジェファソンの邸宅である。ジェファソンは、道徳的な農民を主体にした農本主義は共和制を頽廃から守ると主張していたが、ハミルトンはその農本主義の根本に非人道的な奴隷制度があるという矛盾を突いている。

ジェファソンはハミルトンと違って従軍経験がない。「あちらへ行ってフランス人と浮かれている間」は、おそらくジェファソンが渡仏してフランス革命に関与していたことを指しているのだろう。

最後の「I’ll show you where my shoe fits(ほらあっちを向いてけつを見せな、靴を突っ込んでやるからな)」は、ジェファソンの「if the shoe fits, wear it(思い当たることはないかな)」と対応している。


WASHINGTON: 

Excuse me? Jefferson, Madison, take a walk! Hamilton, take a walk! We’ll reconvene after a brief recess. Hamilton!

「ちょっとすまないが、ジェファソンとマディソン、ちょっと散歩でもしてくれたまえ。ハミルトンもだ。ちょっと休憩を挟んでまた集まろう。ハミルトン」


解説:ワシントン政権初期、ワシントンはマディソンに様々なことを相談していたが、閣議の席に招かれることはなかった。なぜならマディソンは立法府の一員であり、閣僚ではなかったからである。


HAMILTON: 

Sir!

「はい」


WASHINGTON: 

A word.

「ちょっと一言」


MADISON: 

You don’t have the votes.

「十分な票がない」


解説:ハミルトンの公債償還計画は議会で激しい議論を巻き起こした。しかし、反対意見を唱える者が多く、膠着状態に陥っていた。マディソンは公債償還計画の反対派の領袖であった。


JEFFERSON, MADISON: 

You don’t have the votes.

「十分な票がない」


JEFFERSON: 

Aha-ha-ha ha!

「ははは」


JEFFERSON, MADISON: 

You’re gonna need congressional approval and you don’t have the votes.

「議会の承認が必要だが、十分な票がない」


JEFFERSON: 

Such a blunder sometimes it makes me wonder why I even bring the thunder.

「そんなへまを見ているとね、わざわざ私が焼きを入れる必要なんかあるかなと思ってしまうよ」


MADISON: 

Why he even brings the thunder…

「彼が焼きを入れるのは・・・」


Washington & Hamilton, alone.


WASHINGTON: 

You wanna pull yourself together?

「ちょっと気を休めたいか」


HAMILTON: 

I’m sorry, these Virginians are birds of a feather.

「すいません。ヴァージニア人は烏合の衆ですから」


WASHINGTON: 

Young man, I’m from Virginia. So watch your mouth.

「ちょっと君、私もヴァージニア人なのだが。発言に気を付けよ」


HAMILTON: 

So we let Congress get held hostage by the South?

「連邦議会を南部の思い通りにさせてよいのでしょうか」


WASHINGTON: 

You need the votes.

「票が必要だろう」


HAMILTON: 

No, we need bold strokes. We need this plan.

「いいえ、我々には票ではなく大胆な施策が必要です。我々には公債償還計画が必要なのです」


WASHINGTON: 

No, you need to convince more folks.

「いいや、より多くの者達を説得する必要がある」


HAMILTON: 

Well, James Madison won’t talk to me, that’s a nonstarter.

「でもマディソンは私と話そうとしないでしょう。まったく見込みがありません」


WASHINGTON: 

Winning was easy, young man. Governing’s harder.

「勝利はたやすい。しかし、統治は難しい」


解説:ミランダによれば、第一幕の「Dying is easy, young man/ Living is harder」に対応している。この部分は、相手を論破するよりも相手と何とかうまくやっていくほうが大事だとワシントンがハミルトンを諭していると解釈できる。またワシントンがハミルトンとジェファソンの対決という困難な状況に直面して、総司令官として戦争に勝つよりも今、こうして大統領として新国家を統治するほうがさらに大変だと嘆いているとも解釈できる。


HAMILTON: 

They’re being intransigent.

「彼らは妥協に応じようとしません」


WASHINGTON: 

You have to find a compromise.

「何とか妥協点を見つけなければならない」


HAMILTON: 

But they don’t have a plan, they just hate mine!

「しかし、彼らには対案などなくて、ただ私の計画をつぶそうとしているだけです」


WASHINGTON: 

Convince them otherwise.

「別の方法で彼らを説得するのだ」


HAMILTON: 

What happens if I don’t get congressional approval?

「もし議会の承認が得られなければどうなりますか」


WASHINGTON: 

I imagine they’ll call for your removal.

「きっと君を罷免するように彼らは求めるだろう」


HAMILTON: 

Sir—

「それは・・・」


WASHINGTON: 

Figure it out, Alexander. That’s an order from your commander.

「考えよ、アレグザンダー。司令官からの命令だ」


解説:独立戦争中、ハミルトンはワシントンの副官であった。


ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説27―Take A Break 和訳

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