ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説7―You'll Be Back 和訳

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KING GEORGE:

You say The price of my love's not a price that you're willing to pay. You cry In your tea which you hurl in the sea when you see me go by. Why so sad? Remember we made an arrangement when you went away. Now you're making me mad. Remember, despite our estrangement, I'm your man.

「ふむふむ、朕の愛の代償はそなたらが払えるようなものではないとな。ふむふむ、そなたらは朕が無視していると感じたら紅茶を海に投げ捨ててしまうとな。どうしてそんなになさけないのだ。そなたらが行ってしまおうとするから何かと便宜を図ってやったことを忘れるな。今、そなたらは私を気も狂わんばかりにしておるぞ。ごたごたはいろいろあるが、とにかく朕はそなたらの大事な人なんだぞ」


解説:ミランダによれば、ここはボストン茶会事件について触れている。ボストン茶会事件とは、イギリス本国が経営が傾いていた東インド会社を救うために北アメリカ市場での紅茶の専売体制を作ろうと考えたことがきっかけで起きた事件。東インド会社の経済的専制に危機感を覚えたアメリカ人が紅茶を海に投げ込んだ。この事件はイギリス本国を激怒させ、北アメリカに対して厳しい処置をとらせることになった。

ジョージ3世はどのような人物であったのか。劇場では登場とともに観客を爆笑の渦に巻き込んでいたが、はたして実際はどのような人物であったのか。

近年の病理学者の研究によれば、ジョージ3世は先天性ポルフィリン症だとされている。組織内にポルフィリンが沈着する代謝障害で光に対して敏感となる。その結果、腹痛、異常行動、血尿、麻痺、譫妄などの症状が現れるという。

歴史学者の研究では、国王の精神状態について様々な説がある。1775年夏頃の記録には次のように書かれている。王室の何気ない生活が描かれているとともに、国王の精神状態には微塵も問題がないように見える。

国王一家は朝6時に起床して、それから2時間、彼ら自身の時間を楽しむ。8時、王太子、オスナバーグの司祭、王女、ウィリアム王子、エドワード王子がキュー[ロンドン西郊]にあるそれぞれの邸宅から両親と朝食を摂るためにやって来る。9時、年少の子供達がたどたどしい口調で笑いながら朝の挨拶をする。5人の年長者はそれぞれの用事に取り掛かる一方で幼い子供達は扶育者に付き添われてリッチモンド庭園で午前中を過ごす。国王と王妃は子供達が食事しているのを眺めてよく楽しんでいた。週に1度、すべての子供達が連れ立ってリッチモンド庭園に楽しい小旅行をした。午後、王妃は忙しく働き、国王は何かを王妃に読んで聞かせる。[中略]。夕方、すべての子供達はベッドに入る前にキュー宮殿にやって来て挨拶する。そして、同じ事が毎日繰り返される。運動、新鮮な空気、そして、軽い食事が国王の健康法であり活力の源である。陛下は主に野菜を食べワインはほとんど呑まない。王妃は多くの市井の淑女に言わせれば非常に禁欲的である。珍味佳肴が並べられているテーブルから彼女は最も普通の皿を選んで、しかも1回の食事に2つ以上のものを滅多に食べることはない。

ただ当時のアメリカ人は国王がどのような人物であるか知る者はほとんどいなかった。ジェファソンが起草した独立宣言でジョージ3世は暴君としてさんざんにやっつけられているが、実際はそうとは言えない。

確かに国王は、自分の考えに固執しがちであり、他人の優れた見解を理解できず、絶えず自身の息子達と諍いを起し、娘たちを隔離するなど救い難い君主であった。濃霧の中から世界を見ている男。それが国王であった。濃霧が薄らぎ光が射すと、時に優れた理解力や判断を示すこともあった。良い時と悪い時の振れ幅が大きく、同じ人間に2人の別人が宿っているかのようであった。傅育官を務めた貴族は、ジョージ3世が「正しいことをしようと間違う場合を除いて間違ったことをすることは滅多にない」と述べている。

ジョージ3世は、できる限り優れた君主たろうとして自分が常に正しいと信じていたのだろう。悪人ではない。故意に悪い行いはしない。しかし、善悪は絶対ではない。それにもかかわらず、国王は絶対的な善があると信じて、それに従って行動しようとする。そうした偏狭な考えでは、うまくいくものもうまくいかなくなる。そうなるといったいどうすればよいのか分からなくなり、自分の殻に閉じ籠ってしまう。確かにジョージ3世は明君ではなかったが、独立宣言でさんざんに痛罵されるような暴君ではなかった。


You'll be back. Soon you'll see. You'll remember you belong to me. You'll be back. Time will tell. You'll remember that I served you well.

「そなたらはきっと戻ってくる。すぐにわかるだろうよ。そなたらは朕の臣民であることを忘れはしない。そなたらはきっと戻ってくる。時間が経てば明らかになるはずだ。朕がそなたらを大切にしてきたことを忘れていないだろう」


解説:ジョージ3世は、戦況が不利になるまでアメリカの独立を頑として認めようとしなかった。独立運動の発端となった課税をめぐる闘争もイギリス本国からすれば、アメリカ人のわがままにすぎなかった。帝国の維持には莫大な費用が必要だが、イギリス本国に住む人々に比べてアメリカ人が支払っている税金は非常に少なかった。帝国の下で多くの利益を享受しているのであればアメリカ人も税金をきちんと払うべきだという考えは無理難題とは言えない。


Oceans rise. Empires fall. We have seen each other through it all, And when push Comes to shove, I will send a fully armed battalion To remind you of my love!

「海が盛り上がり諸帝国が滅びる。それでもその間ずっと我々は互いに理解し合ってきたではないか。そなたらが無茶をやろうとするなら朕は軍を送り込まねばなるまい。朕の愛をそなたらに思い出せるために」


Da da da da da da da da ya da Da da da da da ya da! Da da da da da da da da da da ya da, Da da dat dat da ya...


解説:ミランダは「私はこの歌をハネムーンで南太平洋に行った時に書いた。だいたいアイデアはまとまっていたが、素晴らしい島々を巡っている時、ふと思いついて歌ってみた。曲調はピアノなしで作った。心の中から湧き出た旋律だ」と述べている。


You say our love is draining and you can't go on. You'll be the one complaining when I am gone...

「ふむふむ、朕の愛が尽きてしまってもうやっていけぬとな。朕が行ってしまえばきっとそなたらは後悔するぞ」

And, no, don't change the subject, Cuz you're my favorite subject, My sweet, submissive subject, My loyal, royal subject, Forever and ever and ever and ever and ever...

「話題を変えずにおこうか。なぜならそなたらは朕の大事な臣民だからだ。朕の大切でおとなしい臣民、朕の忠実な忠実な臣民、永遠に永遠に・・・」


解説:「subject」が「話題」と「臣民」という別の意味でそれぞれ使われている。


You'll be back, Like before, I will fight the fight and win the war For your love, For your praise, And I'll love you till my dying days.

「そなたらは戻ってくる。以前と同じように。朕は戦い抜いて勝利するぞ。そなたらの愛のために。そなたらの崇拝のために。あの世に行くまで朕はそなたらを愛すぞ」


When you're gone I'll go mad, So don't throw away this thing we had. Cuz when push comes to shove I will kill your friends and family to remind you of my love.

「そなたらが行ってしまったら朕は気も狂わんばかりだ。だから我々の仲を台無しにするようなことはするな。そなたらが無茶をやろうとするなら朕はそなたらの友人や家族を殺さなければならぬ。朕の愛をそなたらに思い出させるために」


解説:ジョージ3世はアメリカ人をどのように思っていたのか。ある日、キュー・ガーデンでジョージ3世はアメリカからやって来たという庭師に出会った。その時、次のように言ったという。

「おおアメリカ人とな。頑迷な本当に頑迷な人々だ」

こうした言葉からジョージ3世がアメリカ人に対してどのような感情を抱いていたかわかる。


Da da da da da da da da ya da Da da da da da ya da! Da da da da da da da da da da ya da, Da da dat dat-Everybody!


ENSEMBLE:

Da da da da da da da da ya da Da da da da da ya da! Da da da da da da da da da da ya da, Da da dat dat da ya da!

 

British soldiers in red coats emerge. One rebel is killed.


ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説8―Right Hand Man 和訳

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