ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説8―Right Hand Man 和訳

原文&和訳のみ解説なし⇒ミュージカル『ハミルトン』Right Hand Man 和訳


The company sees a full armada, offstage.


COMPANY:

British Admiral Howe’s got troops on the water. Thirty-two thousand troops in New York harbor.

「イギリス艦隊のハウ提督が兵士達を連れてきた。3万2,000人がニュー・ヨーク港に」


解説:ミランダは「想像してみてほしい。ニュー・ヨーク周辺の水路が大規模な艦隊によって覆われ、空を塞いでしまった様子を」と述べている。

ニュー・ヨークのイギリス艦隊(1776年7月12日)。工兵士官アーチボルド・ロバートソンによる当時の記録。

この歌詞は1776年のニュー・ヨーク・シティをめぐる攻防を題材にしている。前年のボストンの攻防は、ワシントン率いるアメリカ軍がボストンに籠もるイギリス軍を撤退させることに成功していた。態勢を立て直したイギリス軍は今度はニュー・ヨーク・シティを奪取すべく作戦を開始した。

正確にはイギリス軍の兵力は3万2,000人に1万3,000人の水兵を合わせて総勢4万5,000人である。陸軍を率いるのはハウ提督の兄弟のハウ将軍である。

4万5,000人という数はアメリカ最大の都市であるフィラデルフィアの人口に匹敵する。そして、イギリス軍が擁する艦隊も18世紀の戦史の中で最大級の艦隊である。ある艦長は「その強大さにヨーロッパの強国さえ恐れおののくだろう」と誇っている。こうした強力なイギリス軍に対してアメリカ軍はその半数に満たず海軍は皆無も同然であった。


ENSEMBLE 1:

Thirty-two thousand troops in New York harbor When they surround our troops! They surround our troops! When they surround our troops! 

「3万2,000人がニュー・ヨーク港に、それからイギリス軍は我が軍を包囲した。イギリス軍は我が軍を包囲した。それからイギリス軍は我が軍を包囲した」


解説:イギリス軍はまずニュー・ヨーク・シティ(マンハッタン島)の南西にあるスタテン島に上陸した。アメリカ軍はマンハッタン島を中心に守りを固めた。


ENSEMBLE 2:

Thirty-two thousand troops in New York harbor They surround our troops! They surround our troops! 

「3万2,000人がニュー・ヨーク港に、イギリス軍は我が軍を包囲した。イギリス軍は我が軍を包囲した。それからイギリス軍は我が軍を包囲した」


HAMILTON:

As a kid in the Caribbean I wished for a war. I knew that I was poor I knew it was the only way to—

「カリブ海で子供の頃、私は戦争を望んでいた。貧しい私が・・・」


解説:ミランダは「確かに彼はそうだった。14歳の頃、友人のネッド・スティーヴンズに宛てた手紙で『戦争があればなあと私は思う』と書いている」と記している。

この手紙については『ハミルトン―アメリカ資本主義を創った男』で詳しく紹介されている。


HAMILTON/BURR/MULLIGAN/LAURENS/LAFAYETTE:

Rise up!

「のしあがる唯一の道」


解説:デイヴィッド・ラムジー著『アメリカ革命史』には、「戦争は才能のある人を要求しただけではなく、才能ある人を生み出したのだ」という有名な言葉がある。ハミルトンはまさにそうした顕著な例である。


HAMILTON:

If they tell my story I am either gonna die on the battlefield in glory or—

「もし私の話をする者がいれば、私は栄光に包まれて戦場で死ぬか・・・」


HAMILTON/BURR/MULLIGAN/LAURENS/LAFAYETTE:

Rise up!

「のしあがるかだ」


解説:ミランダは「この国ではよくあるように、軍務に就くことは信頼を得るための手段であった。今でもそうなように」と述べている。


HAMILTON:

We will fight for this land But there’s only one man Who can give us a command so we can—

「我々は我が国のために戦う。でも我々を導ける人物はただ一人・・・」


HAMILTON/BURR/MULLIGAN/LAURENS/LAFAYETTE:

Rise up!

「我々を立ち上がらせる」


HAMILTON:

Understand? It’s the only way to—

「いいかい。それこそ唯一の・・・」


HAMILTON/BURR/MULLIGAN/LAURENS/LAFAYETTE:

Rise up! Rise up!

「挫けない道なんだ」


HAMILTON:

Here he comes!

「さあおでましだ」


George Washington enters, heralded by soldiers.


ENSEMBLE:

Here comes the general!

「将軍のおでましだ」


BURR:

Ladies and gentlemen!

「紳士淑女のみなさん」


ENSEMBLE:

Here comes the general!

「将軍のおでましだ」


BURR:

The moment you’ve been waiting for!

「君たちが待ちに待った時が来たぞ」


ENSEMBLE:

Here comes the general!

「将軍がおでましだ」


BURR:

The pride of Mount Vernon!

「マウント・ヴァーノンの誇り」


解説:マウント・ヴァーノンはジョージ・ワシントンがこよなく愛した邸宅である。詳しくはアメリカ歴史旅XVII―ワシントンの邸宅マウント・ヴァーノンを参照のこと。


ENSEMBLE:

Here comes the general!

「将軍がおでましだ」


BURR:

George Washington!

「ジョージ・ワシントン」


WASHINGTON:

We are outgunned, Outmanned, Outnumbered, outplanned. We gotta make an all out stand Ayo, I’m gonna need a right-hand man.

「我々は大砲も足りず、人員も足りず、兵力も足りず、作戦もない。我々はすべてをきちんとやらなければいかん。ああ、右腕となる男が必要だ」


解説:イギリス本国の対植民地政策によってアメリカでは製造業の発達が遅れ、独立戦争当時、ほとんど精密な大砲が作れなかった。そのため独立戦争初期、アメリカ軍は大砲の不足に悩まされた。

ワシントンはニュー・ヨーク・シティを守る作戦を立案したものの、制海権を握るイギリス軍を前にしてなす術がなかったというのが実情である。

大陸軍総司令官に着任して以来、ワシントンは副官や書記官からなら幕僚の助けを借りていた。幕僚には、有力者の子弟であることや才能を持つことなど条件があったが、ワシントンのお眼鏡にかなう人物は数人しかいなかった。


ENSEMBLE:

What? What? Buck, buck, buck, buck, buck! Buck, buck, buck, buck, buck!

「何だって何だって。おいおいおい」


WASHINGTON:

Check it—Can I be real a second? For just a millisecond? Let down my guard and tell the people how I feel a second? Now I’m the model of a modern major general, The venerated Virginian veteran whose men are all Lining up, to put me up on a pedestal, Writin’ letters to relatives Embellishin’ my elegance and eloquence, But the elephant is in the room. The truth is in ya face when ya hear the British cannons go…

「聞いてくれ。私は一瞬であろうとも本心をさらけだせるのか。刹那であろうとも。心の壁を取り払って一瞬であろうとも私が何を思い悩んでるのか人々に伝えてやろうか。今や私は当世風の将軍のお手本、尊敬すべきヴァージニアの古参兵[ワシントン]、兵士達は全員整列して私を祭り上げる。親戚に手紙を書き、優雅な文体で装飾する。しかし、部屋の中に象がいる[本当は無視できない問題なのにあまりに困難なために見て見ぬふりをしている]。真実は君の顔に出ている。イギリス軍の大砲が・・・」


解説:ワシントンは時間に非常に厳格であった。時計を持っている個人が限られている時代、そのように時間に厳格なのは珍しいことであった。

ワシントンはヴァージニア出身でフレンチ・アンド・インディアン戦争時に指揮官になった経験がある。

ワシントンは軍中から親戚に宛てた手紙をたくさん書いている。そうした手紙の中には軍の状況について正直に伝えたものもあるが、敵の手に落ちることを恐れて内情を隠したものもあった。ワシントンが今、困ってるのは、どのようにしてニュー・ヨーク・シティをイギリス軍から守れるかである。


ENSEMBLE:

Boom!

「ドドーン」


WASHINGTON:

Any hope of success is fleeting, How can I keep leading when the people I’m leading keep retreating?

We put a stop to the bleeding as the British take Brooklyn,

Knight takes rook, but look, We are outgunned, Outmanned, Outnumbered, outplanned. We gotta make an all out stand

Ayo, I’m gonna need a right-hand man. Incoming!

「うまくいく見込みはなくなってしまった。私が率いている兵士達が撤退ばかりしているのにどうして指揮ができるというのだ。イギリス軍がブルックリンを奪取したが、我々はなんとかこのひどい状況を止めなければならない。ナイトがルークを取ったが、見よ、我々は大砲も足りず、人員も足りず、兵力も足りず、作戦もない。我々はすべてをきちんとやらなければいかん。ああ、右腕となる男が必要だ。おお、そういう男がやって来たぞ」


解説:「イギリス軍がブルックリンを奪取した」というのは、ロング島の戦いに関して述べている。ブルックリンはニュー・ヨーク市街の対岸にあって、イギリス軍にそこを占領され、大砲を据えられると市街が危険にさらされる恐れがあった。そのためワシントンはブルックリンに部隊を展開して守りを固めていたが、イギリス軍に打ち破られた。

ミランダによれば、小学生の時に学校でチェスの授業があり、そこでチェスを学んだという。「ナイトがルークを取った」というのは、この文脈ではなんとか一矢報いたといった意味。ロング島の戦いでアメリカ軍は追い詰められ、壊滅の瀬戸際に立たされたが、うまく撤退することができた。それは「アメリカのダンケルク」と呼ばれる奇跡であった。


ENSEMBLE:

What? What? Buck, buck, buck, buck, buck! Buck, buck, buck, buck, buck!

「何だって何だって。おいおいおい」


HAMILTON:

They’re battering down the Battery Check the damages.

「イギリス軍は砲台をやっつけてしまった。損害を確認せよ」


解説:ニュー・ヨーク・シティの攻防の際、ハミルトンは砲兵隊を指揮して戦っていた。


MULLIGAN:

Rah!

「よっしゃ」


HAMILTON:

We gotta stop ‘em and rob ‘em Of their advantages.

「我々は奴らを止めて鼻を明かしてやるんだ」


MULLIGAN:

Rah!

「よっしゃ」


HAMILTON:

Let’s take a stand with the stamina God has granted us. Hamilton won’t abandon ship, Yo, let’s steal their cannons—

「神に我々に与えてくれた力で踏み止まれ。ハミルトンは最期まで諦めないぞ。さあ盗もう、イギリス軍の大砲・・・」


解説:ミランダは「ハミルトンとマリガンは実際に一緒に大砲を盗みに行っている」と述べている。


MULLIGAN:

boom!

「ドドーン」


COMPANY:

Boom!

「ドドーン」


WASHINGTON:

Goes the cannon, watch the blood and the shit spray and…

「大砲を守りに行け、流血と混乱を見て・・・」


COMPANY:

Boom!

「ドドーン」


WASHINGTON:

Goes the cannon, we’re abandonin’ Kips Bay and…

「大砲を守りに行け、我々はキップス湾を放棄して・・・」

 

ニュー・ヨークの攻防

解説:ロング島の戦いの後、イギリス軍はマンハッタン島中部のキップス湾から上陸を試みてアメリカ軍を分断しようとした。イギリス軍の勢いに押されたアメリカ軍は北方のハーレム高地に後退して立て籠もった。


COMPANY:

Boom!

「ドドーン」


WASHINGTON:

There’s another ship and…

「軍艦がもう1隻・・・」


COMPANY:

Boom!

「ドドーン」


WASHINGTON:

We just lost the southern tip and…

「我々はマンハッタン島の南端を失っただけだ・・・」


解説:「マンハッタン島の南端」とは具体的にはニュー・ヨーク市街のこと。当時の市街地はマンハッタン島の南端のみに広がっていた。


COMPANY:

Boom!

「ドドーン」


WASHINGTON:

We gotta run to Harlem quick, we can’t afford another slip. Guns and horses giddyup, I decide to divvy up My forces, they’re skittish as the British cut the city up. This close to giving up, facing mad scrutiny, I scream in the face of this mass mutiny: Are these the men with which I am to defend America? We ride at midnight, Manhattan in the distance. I cannot be everywhere at once, people. I’m in dire need of assistance…

「ハーレムに急いで向かっている。軍艦がもう一隻来たらおしまいだから。大砲と馬が進む。私は兵士達を各所に配置して備えたが、イギリス軍が街を分断すると兵士達はあわててしまった。これはもう敗北に等しい。私は混乱を見極めて騒ぐ兵士達の前で怒鳴った。こんな奴らとともにアメリカを守れるのかと。我々は夜中も馬で走った。マンハッタン島はもう遙か彼方だ。私は独りで同時にどこにでも出現できるわけじゃない。助けが本当に必要だ・・・」


解説:ミランダによれば、「こんな奴らとともにアメリカを守れるのか」という言葉は「珍しくかんしゃくを爆発させたワシントンから直接引用した」という。

キップス湾に展開したイギリスの艦隊は、一時間にわたって激しい砲撃を岸辺に浴びせた。ハウ将軍の書記官は、「砲撃のあまりの凄まじさ、絶え間のなさは、陸軍でも海軍でもそれまで滅多になかったほどであった」と記録している。

キップス湾周辺を守備していたコネティカット民兵は、練度も戦闘経験も乏しい部隊であった。塹壕にただ身を潜めて息を殺していた。「塹壕」と称していても、それは川岸に沿って掘られた溝にすぎなかった。激しい砲撃に耐えられる防御施設ではない。しかも敵艦船は至近距離で砲撃を続けていた。

砲撃が止む。バグパイプが勇ましく演奏される中、4,000人のイギリス軍とヘッセン傭兵は、何の抵抗も受けずに整然と上陸を開始する。獰猛なヘッセン傭兵は、姿を現すだけで、未熟な民兵を震え上がらせるのに十分であった。コネティカット民兵は一発の銃弾も放たずに退却する。

キップス湾の近くには、地名の由来となったキップ家の邸宅があった。本国支持派の当主は、民兵に邸宅を宿舎として徴発されて困惑していたが、イギリス軍がやって来たのを知って胸を撫で下ろす。上陸したイギリス軍の将軍たちを邸宅に迎えてもてなす。キップ邸でハウをはじめ将軍たちが、シェリー酒を片手に砂糖入りビスケットを齧っている一方で、兵士たちは断崖の狭間にある小さな浜に上陸を続けていた。イギリス軍は大陸軍を南北に分断しようと動き出す。  

砲声は、キップス湾の北部のハーレム高地にも届く。立ち昇る煙が敵軍の位置を示している。ワシントンは、馬に一鞭入れて南に向かう。副官たちが慌てて総司令官に続く。

40分後、白き稲妻のように疾駆する馬の行く手にトウモロコシ畑が見えてくる。そこで民兵たちが右往左往して混乱に陥っている。士官が隊伍を整えようと声を嗄らして命令を怒鳴っているが耳を貸そうとする者は誰もいない。そこへ数十人のイギリス兵が姿を現す。民兵たちに敵に立ち向かう勇気は残されていなかった。銃を投げ捨て、できるだけ身を軽くして逃げようと慌てふためている。

「壁を守れ。トウモロコシ畑を守れ」

ワシントンの命令が飛ぶ。さらにパトナムが何とか壁の背後に兵士たちを整列させようするが命令を聞く者はほとんどいない。ワシントンの表情にさっと怒りの色が浮かぶ。激昂して乗馬鞭で士官の背中を打ち据える。さらに何とか態勢を立て直そうと、剣の平で左右の兵士たちを叩く。

「こんな兵士たちとともに一緒にアメリカを守れというのか」

そう言ってワシントンは、帽子を地面に投げ捨てる。ワシントンの激昂にもかかわらず、兵士たちは迫り来るヘッセン傭兵の姿に怯えて「悪魔に追われたかのように」逃げ散ってしまった。ワシントンと副官たちだけが戦場に残される。

敵軍が80ヤード先まで迫る。ワシントンは、まるで騎乗像のように佇立して、それを凝視している。当時の記録者の筆を借りれば、ワシントンは「兵士たちの不名誉な行動に非常に困惑したので、生よりも死を選ぼうとした」という。はっと気が付いた1人の副官が、ワシントンの乗馬の馬勒を掴み、馬首を反転させてようやくその場から離れさせた。


Washington's tent. Burr enters.


BURR:

Your excellency, sir!

「閣下」


WASHINGTON:

Who are you?

「君は誰だ」


BURR:

Aaron Burr, Sir? Permission to state my case?

「アーロン・バーです。私の用件を述べてもよろしいですか」


WASHINGTON:

As you were.

「よかろう」


BURR:

Sir, I was a captain under General Montgomery

Until he caught a bullet in the neck in Quebec, and well, in summary I think that I could be of some assistance. I admire how you keep firing on the British from a distance.

「モンゴメリー将軍の下で大尉を務めていました。モンゴメリー将軍はケベックの岬で銃弾に倒れましたが・・・。でもとどのつまり私はお役に立てると思います。イギリス軍を遠くから攻撃し続けられる閣下はすごいと思っています」


解説:ミランダは「バーは自ら勇敢な兵士であることを示し、イギリス軍に対する遠征に参加している。バーは数週間、ワシントンの下で働き、ここはそれについて言及している。我々はどうしてワシントンとバーが別れたのか理由を知らない。だから私はこのようにこの場面を作り上げた」と言っている。

ニュー・ヨーク・シティの攻防戦の際に、バーがワシントンの下で一時期、働いているのは事実である。どうやらバーはワシントンの副官になろうとしたようだ。しかし、バーとワシントンはそりが合わなかった。その後、バーはパトナム将軍の副官に落ち着いている。

ハミルトンがワシントンの副官になった一方で、バーがその機会を活かさなかったことは、2人の将来を決定付けることになる。ハミルトンがワシントンの庇護をずっと受け続けたのに対して、バーはそうではなかった。バーのワシントン評は非常に辛辣である。したがって、歌詞にもワシントンに対する皮肉が込められている。


WASHINGTON:

Huh.

「なんだと」


BURR:

I have some questions, a couple of suggestions On how to fight instead of fleeing west.

「提案があります。西に逃れる代わりに他に戦い方がありますがいかがでしょう」


ニュー・ヨークからの撤退

 解説:アメリカ軍はマンハッタン島を脱出した後、ニュー・ジャージーを抜けてフィラデルフィア方面に逃れることになる。ワシントンは西に逃れてイギリス軍を避けようと述べているがその相手はバーではなくジョゼフ・リードという副官を務めていた人物である。


WASHINGTON:

Yes?

「何か」


BURR:

Well—

「ええっと・・・」


HAMILTON:

Your excellency, you wanted to see me?

「閣下、私をお呼びですか」


解説:ハミルトンとワシントンが初めて知り合ったのはいつかは諸説ある。正確に言えば、1776年4月中旬から1776年12月初旬のいつかである。ただ手紙や日記、回顧録などさまざまな史料をもとに類推すると、最も可能性が高いのは1776年9月頃である。


WASHINGTON:

Hamilton, come in, have you met Burr?

「ハミルトン、入れ、バーは知っているな」


HAMILTON:

Yes, sir.

「もちろん」


HAMILTON AND BURR:

We keep meeting.

「我々は何度も会っています」


解説:ハミルトンとバーが初めて会ったのがいつかも詳細は不明である。


BURR:

As I was saying, sir, I look forward to seeing your strategy play out.

「申し上げた通り、閣下のお手並みを拝見したいところです」


解説:これもバーの皮肉である。バーはワシントンの能力を高く評価しておらず、ハミルトンの意のままに操られているのではと思っていたふしがある。


WASHINGTON:

Burr?

「バー・・・」


BURR:

Sir?

「閣下・・・」


WASHINGTON:

Close the door on your way out.

「出て行く時はドアを閉めろ」


Burr exits.


HAMILTON:

Have I done something wrong, sir?

「何か私は変なことをしたでしょうか」


WASHINGTON:

On the contrary. I called you here because our odds are beyond scary. Your reputation precedes you, but I have to laugh.

「いやとんでもない。私が君を呼んだのは我々の勝ち目がまったくないからだ。君は評判ほどではないようだが、そんなことは一笑に付さなければな」


HAMILTON:

Sir?

「閣下・・・」


WASHINGTON:

Hamilton, how come no one can get you on their staff?

「ハミルトン、なぜ君は誰の幕僚にもならなかったのだ」


HAMILTON:

Sir!

「閣下・・・」


WASHINGTON:

Don’t get me wrong, you’re a young man, of great renown. I know you stole British cannons when we were still downtown. Nathanael Greene and Henry Knox wanted to hire you...

「誤解するな。君は若く評判が良い。我々がまだニュー・ヨーク市街にいた時、君がイギリス軍の大砲を盗んだことを知っている。ナサニエル・グリーンとヘンリー・ノックスが君を幕僚に迎えたがっていたが・・・」


解説:ヘンリー・ノックスは元ボストンの書店主。ハミルトンが書いた『反駁された農夫』を広告に出したことがある。大陸軍に身を投じて砲兵技術を活かして砲兵隊を統括する。

身長6フィート2インチ(約188cm)、体重280ポンド(約127kg)。ちなみに当時の男性の平均身長は5フィート5インチ(約165cmである。兵士たちの中にいれば頭1つ分だけ飛び出して見える。事故で左手の指を2本失い、ハンカチでいつも隠していた。よく笑い、青い目を輝かせながら愉快な話を大声で話す20代半ばの好青年である。後にワシントン政権でハミルトンとともに閣僚を務める。

ナサニエル・グリーンは、ロード・アイランド植民地で鍛冶屋や製材所などを手広く運営する事業家であった。戦争が始まると、イギリス軍の脱走兵からマスケット銃を買って一兵卒として従軍した。幼少時にラテン語を習得した早熟ぶりでよく知られていた。無類の本好きである。実はノックスの書店の上得意でたくさんの軍事書を購入していた。

喘息持ちでいつも足をひきずっていたので、最初、仲間の兵士たちはグリーンの実力をなかなか認めようとしなかった。しかし、グリーンの勤勉な働きぶりと朗らかな性格はしだいに認められるようになり、ロード・アイランドの民兵隊を指揮する士官となった。そして、大陸会議から准将の辞令を得た。その当時、グリーンは33歳で最年少の将軍である。


HAMILTON:

To be their secretary? I don’t think so.

「彼らの書記官にですか。私はそうは思いませんね」


解説:ハミルトンは前線の司令官として活躍して軍功を立てるのが夢であった。


WASHINGTON:

Why’re you upset?

「なぜあわてている」


HAMILTON:

I’m not—

「いえ、そんな・・・」


WASHINGTON:

It’s alright, you want to fight, you’ve got a hunger. I was just like you when I was younger. Head full of fantasies of dyin’ like a martyr?

「まあよかろう。君は戦いたがっている。戦いに飢えている。私も若い頃、君と同じようだったよ。頭の中は殉教者のように死にたいという夢でいっぱいなのか」


解説:戦勝終結後、ワシントンはすぐに大陸軍総司令官を自ら辞任し、また大統領も2期で自ら退任したことから野心のない人物だと評価されている。しかし、若い頃は野心に燃える青年将校だった。そうした自分の姿をワシントンはハミルトンに重ねていたと言える。


HAMILTON:

Yes.

「ええ」


WASHINGTON:

Dying is easy, young man. Living is harder.

「若人よ、死はたやすく、生は難し」


解説:ミランダは「ワシントンの実際の言葉から。何も付け加えていない。もし現在の私が若い頃の私に話し掛けられるなら、おそらくこの言葉を掛けるだろう」と述べている。


HAMILTON:

Why are you telling me this?

「なぜそんなことをおっしゃるのですか」


WASHINGTON:

I’m being honest. I’m working with a third of what our Congress has promised. We are a powder keg about to explode, I need someone like you to lighten the load. So?

「私は正直だからだ。私は大陸会議が約束しているものの3分の1で働いている。我々は爆発しそうな火薬樽のようなものだ。私は重荷を軽減してくれる君のような者が必要だ。どうか」


解説:大陸会議は幕僚の数について規定しているが、ワシントンはなかなか幕僚にふさわしい人物を見つけられず、人手は慢性的に不足していた。


COMPANY (EXCEPT HAMILTON):

I am not throwin’ away my shot! I am not throwin’ away my shot! Ayo, I’m just like my country, I’m young, scrappy and hungry!

「私は諦めないぞ。諦めないぞ。私はこの国にふさわしく、若くて喧嘩っぱやくて野心的だ」


HAMILTON:

I am not throwing away my shot!

「私は諦めたりしないぞ」


WASHINGTON:

Son,

「息子よ」


解説:若い頃、ワシントンは西インド諸島に行ったことがある。そのため後にハミルトンはワシントンの隠し子だから重用されているのではないかという噂が飛び交った。もちろんそれは事実無根だが、ハミルトンとワシントンの関係性を示している。

基本的にワシントンの幕僚として働いた副官は若者が多く、ワシントンが父、副官たちが息子たちといった擬制的な関係にあったとされる。


WASHINGON AND COMPANY:

We are outgunned, outmanned!

「我々は大砲も足りず、人員も足りず、兵力も足りず、作戦もない」


HAMILTON:

You need all the help you can get. I have some friends. Laurens, Mulligan, Marquis de Lafayette, okay, what else?

「閣下にはあらゆる助けが必要です。私には友人がいます。ローレンス、マリガン、ラファイエット、他にも」


解説:ラファイエットがアメリカに到着するのはニュー・ヨーク・シティの攻防の後なので本来であれば、ハミルトンはまだラファイエットを知らない。その一方、ローレンスはハミルトンと同じく副官としてワシントンの下で働いていた。


WASHINGTON AND COMPANY:

Outnumbered, outplanned!

「兵力も足りず、作戦もない」


HAMILTON:

We’ll need some spies on the inside, Some King’s men who might let some things slide―

「我々はイギリス軍の内部にスパイを送り込んでいます。イギリス兵はあまり細かいことを気にしない者ばかりですし・・・」


解説:この時、まだハミルトンはワシントンの副官になっていないが、後に副官になった時に諜報任務に関わっている。マリガンはハミルトンの推薦で諜報員になっている。


HAMILTON:

I’ll write to Congress and tell ‘em we need  supplies, You rally the guys, master the element of surprise. I’ll rise above my station, organize your information, ‘til we rise to the occasion of our new nation. Sir!

「私が大陸会議に手紙を書いて補給が必要だと訴えましょう。閣下は兵士たちを集めて奇襲の時をうかがってください。我々が新しい国を立ち上げるまで私は閣下が必要な情報をまとめましょう。時には越権行為もあるかもしれませんが」


解説:実際にハミルトンは副官としてワシントンの手紙を代筆していた。


ELIZA/ANGELICA/PEGGY:

Whoa, whoa, whoa...

「ウォー、ウォー、ウォー」


COMPANY:

Boom! Chicka-boom!

「ドドーン、ババーン」


ENSEMBLE:

Here comes the general!

「将軍がおでましだ」


LAURENS/LAFAYETTE/MULLIGAN:

What?

「おお」


HAMILTON:

Rise up!

「奮起せよ」


ENSEMBLE:

Here comes the general!

「将軍がおでましだ」


LAURENS/LAFAYETTE/MULLIGAN:

What?

「おお」


HAMILTON:

Rise up! 

「奮起せよ」


SCHUYLER SISTERS:

Rise up!

「頑張れ」


ENSEMBLE:

Here comes the general!

「将軍がおでましだ」


LAURENS/LAFAYETTE/MULLIGAN:

What?

「おお」


HAMILTON:

Rise up!

「奮起せよ」


FULL COMPANY:

Here comes the general!

「将軍がおでましだ」


HAMILTON:

What?

「おお」


WASHINGTON:

And his right hand man!

「それに右腕の男も」


FULL COMPANY:

Boom!

「ドドーン」


⇒ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説9―A Winter's Ball 和訳

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