ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説9―A Winter's Ball 和訳

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BURR:

How does the bastard, orphan, son of a whore go on and on, Grow into more of a phenomenon? Watch this obnoxious, arrogant, loudmouth bother Be seated at the right hand of the father. Washington hires Hamilton right on sight. But Hamilton still wants to fight, not write. Now Hamilton’s skill with a quill is undeniable But what do we have in common? We’re reliable with the

「貧しくむさ苦しかった私生児、孤児、売女が躍進して非凡な者に成長しようとはどういうことだ。この頑固で横柄で偉そうに大口たたく奴を見ろよ。おやじの右腕におさまっているな。ワシントンはハミルトンをそばに置きたがっているが、ハミルトンは戦いたがっている。もう書類を書くのはごめんだとよ。ハミルトンの筆力はなかなかすごい。何か私達に共通点はあるかだって。ああ、我々は大いにもてるのさ」


解説:1777年3月1日、ハミルトンは副官としてワシントンの幕僚の1人に迎えられた。ワシントンは幕僚になった若い士官達と緊密な関係を持ち、それはまるで親子のような関係であった。その中でもワシントンとハミルトンの関係は特別であった。ハミルトンが重用されるのは、実はワシントンの隠し子だからではないかという風聞が後に流布されている。バーが「おやじ」と言って皮肉っているのはそうした事情が背景にある。

ハミルトンが本当に望んでいたのは最前線で戦って軍功を立てることであった。しかし、ハミルトンの高い事務能力を買っていたワシントンはなかなかハミルトンを手放そうとしなかった。もちろん野戦指揮官の空きポストがなかなかできなかったという事情もある。


ALL MEN:

Ladies!

「淑女たちにね」


BURR:

There are so many to deflower.

「なんという多くの落花狼藉かな」


解説:ハミルトンがイライザと出会う前に何人かの女性と親しい関係があったことは確かである。ハミルトンとともに幕僚を務めたジェームズ・マッケンリーは、ハミルトンを「わが親愛なるハミー」と呼ぶ親しい仲だったが、ハミルトンがさまざまな女性達からたやすく好意を得る様子を見て羨望の念を抱いていた。

ただある夜、居酒屋に泊まった時に、そこにいた「かわいい乳搾り娘」が「からいばりのハミルトン」ではなく、ワシントンの親衛隊で鼓笛兵を務める少年に好意を示すのを見て驚いたとマッケンリーは書いている。


ALL MEN:

Ladies!

「淑女たちよ」


BURR:

Looks! Proximity to power.

「見ろよ。権力にうまく取り入っている奴を」


解説:副官は、有力な家門の出の者が多かった。ハミルトンのようにほとんど背景がない者はまれである。したがって、バーはハミルトンがうまくワシントンに取り入って副官になったのではないかと思っている。もちろんバー自身がワシントンとそりが合わずに副官になれなかったという嫉妬もある。さらに副官という権威を笠に着てもてようとはとんでもない奴だという皮肉もこめられている。いかにもバーらしい言葉である。


ALL MEN:

 Ladies!

「淑女たちよ」


BURR:

They delighted and distracted him. Martha Washington named her feral tomcat after him!

「淑女たちはハミルトンを一喜一憂させる。マーサ・ワシントンは野性的な雄猫にハミルトンと名付けたぞ」


解説:ミランダは「これはおそらくジョン・アダムズが後に広めた伝承。しかし、そういうハミルトンが好きだ。お話のこの時点でハミルトンは最高にやんちゃだから」と指摘している。

ミランダも述べているように、この逸話は有名であるが確かな根拠はない。マーサ・ワシントンの研究者も概ねそうした事実はなかったと否定している。そもそもジョン・アダムズは野心的なハミルトンに敵意を持っていた。したがって、ハミルトンについてあまり良く書いていない。


HAMILTON:

That’s true.

「確かにそうだ」


The scene gradually shifts. We are at a winter sodiers' ball.


FULL COMPANY:

Seventeen eighty.

「1780年」


解説:1779年から1780年にかけての冬の間、大陸軍本隊はモリスタウンに冬営地を設けていた。この当時、冬の間は補給の難から大規模な軍事作戦をおこなわず、冬営地で春を待つのが通例であった。

この年は厳冬で冬営地に籠もった兵士達は十分な食料も衣服もなく凍えていた。そうした困難な状況から兵士たちの反乱が起きている。

モリスタウンの現在の様子はアメリカ歴史旅XXIV―モリスタウンを参照のこと。


BURR:

A winter’s ball And the Schuyler sisters are the envy of all. Yo, if you can marry a sister, you’re rich, son.

「冬の舞踏会。スカイラー姉妹は淑女たちの羨望の的。もし姉妹の1人と結婚できれば、金持ちになれるぞ」


解説:冬営地には、ワシントの妻マーサをはじめ士官たちの妻子が滞在していた。主な娯楽は、歌と劇である。時に舞踏会が開かれることもあった。イライザは親戚の家に遊びに来ていた。


HAMILTON:

Is it a question of if, Burr, or which one?

「バー、それはもしもの話じゃないか。それに誰を選べばいいのか」


Eliza, Angelica & Peggy enter.


ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説10―Helpless 和訳

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