ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説10―Helpless 和訳

原文&和訳のみ解説なし⇒ミュージカル『ハミルトン』Helpless 和訳


HAMILTON/BURR/LAURENS:

Hey Hey Hey hey

「やあやあやあ」


HAMILTON/BURR/LAURENS/ALL WOMEN (EXCEPT ELIZA):

Hey hey hey hey

「やあやあやあ」


ELIZA:

Ohh, I do I do I do I Dooo! Hey! Ohh, I do I do I do I Dooo! Boy you got me

「ああ、私は私はなんてこと。なんてことなの。ああ、あなたは私を虜にしてしまったわ」


FEMALE ENSEMBLE, ANGELICA, PEGGY:

Hey hey hey hey Hey hey hey hey Hey hey hey hey Hey hey hey

「ねえねえねえ」


ELIZA AND WOMEN:

Helpless! Look into your eyes, and the sky’s the limit. I’m helpless! Down for the count, and I’m drownin’ in ‘em.

「どうすればいいの。あなたの瞳を覗き込むと空の果てが見えるわ。私はどうすればいいの。もうめろめろよ、あなたの瞳に吸い込まれそうよ」


ELIZA:

I have never been the type to try and grab the spotlight. We were at a revel with some rebels on a hot night, Laughin’ at my sister as she’s dazzling the room. Then you walked in and my heart went “Boom!” Tryin’ to catch your eye from the side of the ballroom. Everybody’s dancin’ and the band’s top volume.

「私は注目を集めようとするような女の子じゃなかったわ。私達が反逆者達と熱い夜を楽しく過ごした時のこと、あなたは舞踏会の会場でまぶしく輝く姉さんを見て笑った。それからあなたが会場に入ってくると、私の心は『ドドーン』と揺れ動いた。会場の端からあなたの目を引こうとした。バンドの音楽に乗ってみんなが踊る」


解説:ミランダによれば、この部分はもともと「私はかわいくもないし、楽しくもないし、賢くもなかったから脇に控えているしかなかった」であった。ミランダは、アンジェリカとイライザの対比を際立たせたかったようだ。

実際、アンジェリカとイライザは対照的な部分が多かった。アンジェリカは教養豊かで勝ち気で自ら前に出る積極的な性格であったが、イライザは賢明であったが教養は豊かではなく芯は強いものの控え目であった。アンジェリカを太陽だとすれば、イライザは月である。

「反逆者」というのはハミルトンが属する大陸軍のことである。もちろんそれはイギリス軍が大陸軍を呼ぶ場合の言葉だが、at a revel with some rebelsと韻を踏むために使われている。

舞台は1779年から1780年にかけてのモリスタウンの冬営地である。モリスタウンには将兵たちだけではなく、その妻や恋人なども滞在していた。士官たちは少ない娯楽の中でダンスを楽しんでいた。

ハミルトンが考えていた結婚相手の条件は、若く美しく、教養はあまりなくても賢明であり、上品で貞淑で穏やかで寛容、そして、持参金が多い女性である。イライザはこうした条件をすべて兼ね備えていた。

1903年、イライザとハミルトンの出会いについて直接聞いたという人物の話が残されている。ここに全訳して紹介する。

私[ジェームズ・ウィルソン(1837-1925)]は、96年もの星霜を経て銀色になった髪を持つ尊敬すべき淑女から招待を受けました。若い頃、彼女と私の代母は同じ家庭教師に教わった仲でした。2人は13歳の時に別れて、それ以後、直接会うことはありませんでした。広大な大西洋が二人の間を隔てていましたが、2人はほぼ80年にわたって文通を続けました。18歳[実際は22歳]のエリザベス・スカイラーは、ニュー・ジャージーのモリスタウンに軍が駐留している時にワシントン夫妻と[1779年-1780年の]冬を一緒に過ごしました。多くの求婚者の中から彼女は一人の若い砲兵大尉に手と心を預けました。そして、二人はオールバニーにある彼女の父[フィリップ・スカイラー]の邸宅で結婚しました。一23年前[1780年]のことです。私が訪問した時[1753年]、彼女が若い大尉と死によって分かたれてから半世紀が過ぎていましたが、総司令官と後に大佐として幕僚の1人になった彼のことを愛情を込めて話しました。彼女は、ワシントンがその時代において最も威厳を備えた人物であり、最も優れた騎手であったと述べました。1頭の駿馬に跨がった彼はいつも兵士達を鼓舞していました。私がこの尊敬すべき女性に別れを告げようとした時、彼女は『私の若き友人よ、あなたが今、唇を付けたまさに同じ手にしばしばワシントンが唇を付けていたことを忘れないでいてくれれば嬉しく思います』と私に言いました。一年後、私はニュー・ヨークのトリニティ教会の陰の下に彼女が彼女の若い大尉のかたわらに葬られたのを知りました。その若い大尉の名声はアメリカの政治家の中でも最も輝かしいものであり、世界の隅々まで響いています。彼の名前はアレグザンダー・ハミルトンです。


ELIZA, WOMEN:

Grind to the rhythm as we wine and dine.

「ワインを飲んで食べながらリズムに乗りましょう」


ELIZA:

Grab my sister, and whisper, “Yo, this one’s mine.” 

「姉さんをつかまえて『彼は私のものなんだから』と私は囁く」


WOMEN:

Ooohh

「おおお」


ELIZA:

My sister made her way across the room to you

「姉さんが部屋を横切ってあなたのほうへ行った」


WOMEN:

Ooohh

「おおお」


ELIZA:

And I got nervous, thinking “What’s she gonna do?” 

「『姉さんは何をしようというの』と思って私は不安になる」


WOMEN: 

Ooohh

「おおお」


ELIZA:

She grabbed you by the arm, I’m thinkin’ “I’m through” 

「姉さんはあなたの腕をつかんだ。私は『もうだめだわ』と思っている」


WOMEN:

Ooohh

「おおお」


ELIZA:

Then you look back at me and suddenly I’m helpless!

「それからあなたは振り返って私を見たわ。ああ、どうすればいいの」


WOMEN:

Helpless!

「どうすればいいの」


ELIZA:

Oh, look at those eyes, Oh! Yeah, I’m Helpless, I know

「ああ、そんな瞳を見てしまったら。ああ、私はどうすればいいの。そうなの・・・」


WOMEN:

Look into your eyes, And the sky's the limit I'm Helpless! Down for the count, And I'm drowin'in 'em

「どうすればいいの。あなたの瞳を覗き込むと空の果てが見えるわ。私はどうすればいいの。もうめろめろよ、あなたの瞳に吸い込まれそうよ」


ELIZA:

I’m so into

「私はあなたに夢中」


WOMEN:

I'm helpless!

「どうすればいいの」


ELIZA:

I am so into you

「私はあなたに夢中なの」


WOMEN:

 Look into your eyes, And the sky's the limit I'm helpless!

「あなたの瞳を覗き込むと空の果てが見えるわ。私はどうすればいいの」


ELIZA:

I know, I’m down for the count And I’m drownin’ in ‘em. 

「そうなの、私はもうめろめろよ、あなたの瞳に吸い込まれそうよ」


WOMEN:

Down for the count, And I'm Drowin'in 'em

「もうめろめろよ、あなたの瞳に吸い込まれそうよ」


HAMILTON:

Where are you taking me?

「君は私をどうしようというんだい」


ANGELICA:

I’m about to change your life.

「私はあなたの人生を変えようとしているのよ」


HAMILTON:

Then by all means, lead the way.

「是非ともよろしくお願いしたい」


ELIZA:

Elizabeth Schuyler. It’s a pleasure to meet you.

「エリザベス・スカイラーです。あなたに会えて嬉しいです」


解説:ハミルトンとイライザの初対面がいつかははっきりしない。ロン・チャーナウによれば、1777年にオールバニーにハミルトンが使者として赴いた時に会っているという。私もその可能性が高いと考えている。


HAMILTON:

Schuyler?

「スカイラー家ですか」


ANGELICA:

My sister.

「私の妹よ」


ELIZA:

Thank you for all your service.

「ありがとうございます」


Hamilton kisses Eliza's hand.


HAMILTON:

If it takes fighting a war for us to meet, it will have been worth it.

「もしまた逢えるなら戦ってもよいくらいです」


ANGELICA:

I’ll leave you to it.

「あなたにお任せするわ」


ELIZA, WOMEN:

One week later

「1週間後」


ELIZA:

I’m writin’ a letter Now my life gets better, every letter that you write me. Laughin’ at my sister, cuz she wants to form a harem.

「私は夜な夜な手紙を書いている。あなたが私に書いてくれる手紙のおかげで私の人生は薔薇色よ。ハーレムを作りたがっている姉さんはお笑い種だわ」


解説:当時の恋愛は、直接の訪問の他に手紙を交換して進めるのが普通であった。ハミルトンとイライザが会っていた家がスカイラー=ハミルトン邸として残っている。正確には、ジェイブズ・キャンプフィールドという人物の家であり、その友人としてジョン・コクラン(イライザの叔母の夫)が滞在していた。イライザは1780年2月に叔母を訪ねて来た。


ANGELICA:

I’m just sayin’, if you really loved me, you would share him.

「もしあなたが私のことを愛しているならきっと彼をともに愛せるはずだと言っているだけ」


解説:アンジェリカはすでに結婚していたが、終生、ハミルトンと親密な手紙を交わしている。研究者の中にはアンジェリカとハミルトンが不倫関係にあったのではないかと考える者さえいる。

ハミルトンはどうやらアンジェリカを永遠の女と見なす一方でイライザを良妻賢母と見なしていた節がある。つまり、アンジェリカはハミルトンからすれば、自分の陽の部分が強く共鳴する相手であった。すなわち社交の場での政治の話などハミルトンは頭脳の面でアンジェリカに魅了されていた。その一方でイライザはハミルトンからすれば、自分の負の部分を埋めてくれる相手であった。すなわち不安を緩和してくれるという点でハミルトンは心の面でイライザに魅了されていた。

こうしたハミルトンの二面性についてイライザもどうやら薄々気付いていたかもしれない。三人はニュー・ヨーク・シティのトリニティ教会の墓地に眠っているが、アンジェリカの墓はハミルトン夫妻から遠く隔たっている。ちなみにトリニティ教会には他にマリガンの墓もある。


ELIZA:

Ha! Two weeks later, In the living room stressin’

「まあまあ。2週間後、応接間でびくびくしていたわ」


解説:1780年4月にスカイラーがモリスタウンを訪問した時のことを指していると考えられる。


WOMEN:

Two weeks later, Stressin’

「2週間後、びくびくしていたわ」


ELIZA:

My father’s stone-faced While you’re asking for his blessin’ 

「父さんの無表情な顔に。あなたが父さんのお眼鏡にかなおうとしているのに」


WOMEN:

Blessin’

「お眼鏡に」


ELIZA:

I’m dying inside, as you wine And dine And I’m tryin’ not to cry, ‘cause There’s nothing that your mind can’t do. 

「あなたがワインを飲んで食べているのを見て私はやきもきしていたわ。でも私は何とか叫ばないようにしていた。あなたに切り抜けられないことなんてきっとないから」


WOMEN:

Ooohh

「おおお」


ELIZA:

My father makes his way across the room to you. I panic for a second, thinking, “We’re through” 

「父さんは部屋を横切ってあなたに近付く。『もう私達はだめだわ』と私はちょっと不安に駆られた」


WOMEN:

Ooohh

「おおお」


ELIZA:

But then he shakes your hand and says “Be true” 

「でも父さんはあなたと握手して『娘の話の通りだな』と言った」


解説:当時の感覚からすれば、スカイラーがハミルトンを娘の結婚相手として認めたことは破格のことであった。イギリスに比べれば階級差は緩やかであったものの、やはり厳然たる階級があり、上流階級同士で通婚するのが普通であった。

なぜスカイラーはハミルトンを認めたのか。スカイラーは、商工業を中心とする国家構想を持ち、フランス語に堪能であった。つまり、ハミルトンと同様な思想的背景と教養を持っていたのでハミルトンの才能を見抜くことができた。さらにスカイラーはハミルトンの将来性に期待していた。なぜならワシントンと強く結び付いていたので、ワシントンが重用しているハミルトンを見逃すはずがなかったからである。

“Be true”はダブルミーニングだと考えられる。この部分はスカイラーが娘との結婚を許可するという筋なので、イライザの言う通りハミルトンが才能を持っているなと褒めたとも取れるが、後の不倫問題を匂わせて(もちろんスカイラー自身は知る由もないが)誠実でいてほしいと釘を刺したとも言える。ただスカイラーは大陸軍の将軍として従軍していたが、ワシントン率いる大陸軍本隊とともに行動することはほとんどなく、ハミルトンの行状(女性関係)を聞くことはまずなかった。


WOMEN:

Ooohh

「おおお」


ELIZA:

And you turn back to me, smiling, and I’m Helpless! 

「あなたは私のほうを見て笑った。もうどうしたらいいかわからないわ」


WOMEN:

Helpless! Look into your eyes, And the sky’s the limit I’m Helpless! 

「どうすればいいの。あなたの瞳を覗き込むと空の果てが見えるわ。私はどうすればいいの」


ELIZA:

Helpless! Hoo! 

「ああ、どうすればいいの」


WOMEN:

Down for the count, And I’m drownin’ in ‘em I’m Helpless!

「もうめろめろよ、あなたの瞳に吸い込まれそうよ。どうすればいいの」


ELIZA:

That boy is mine. That boy is mine! 

「あの人は私のものよ。あの人は私のもの」


WOMEN:

Look into your eyes, And the sky’s the limit I’m Helpless! 

「あなたの瞳を覗き込むと空の果てが見えるわ。どうすればいいの」


WOMEN:

Helpless! Helpless! Down for the count, And I’m drownin’ in em.

「どうすればいいの。どうすればいいの。もうめろめろよ、あなたの瞳に吸い込まれそうよ」


ELIZA:

Helpless! Down for the count, And I'm drownin' in 'em. 

「どうすればいいの。もうめろめろよ、あなたの瞳に吸い込まれそうよ」


HAMILTON:

Eliza, I don’t have a dollar to my name An acre of land, a troop to command, a dollop of fame. All I have’s my honor, a tolerance for pain, A couple of college credits and my top-notch brain. Insane, your family brings out a different side of me. Peggy confides in me, Angelica tried to take a bite of me. No stress, my love for you is never in doubt, We’ll get a little place in Harlem and we’ll figure it out. I’ve been livin’ without a family since I was a child. My father left, my mother died, I grew up buckwild. But I’ll never forget my mother’s face, that was real And long as I’m alive, Eliza, swear to God, You’ll never feel so…

「イライザ、私には自分名義の財産はないよ。土地もなければ、指揮すべき兵士もいない。私が持ってるのは、ただ名誉と苦痛を甘受する強さ、大学の単位に最高の頭脳だけさ。ああ本当に君の家族は私の違った側面を見つけてくれるようだ。ペギーは私を信頼してくれ、アンジェリカは私に刺激を与えてくれる。安心してほしい。君への愛は本物だから。ハーレムにちょっとした場所を買えば、うまくやっていけるさ。子供の頃から私には家族がいなかった。父は出て行ったし、母は死んだからやっとのことで身を立ててきた。でも私は生涯ずっと母の顔をありありと覚えていて忘れることはない。イライザ、神に誓って、君はそんなふうな気持ちになることはないはずさ」


解説:ミランダは「ここではハミルトンの卑下が登場する。実際、ハミルトンは結婚の前に、お金のない男と結婚することについてイライザのロマンティックな幻想を打ち砕く手紙を書いている。同時にハミルトンは最高の頭脳を誇っている。こうした自慢は不安定な基礎の上に築かれていて、それこそ我らがハミルトンが内包する矛盾である」と述べている。

ミランダによれば、Helplessはイライザの恋情を示すだけではなく、ハミルトンがずっと抱いている寄る辺のなさの不安を示しているという。ハミルトンがそうした寄る辺のなさの不安を最初に感じた女性が母である。恵まれた家庭に生まれたイライザはきっとそうした寄る辺のなさを感じることはないだろうとハミルトンは言っている。

建国の父祖たちは有力家系の出身が多く、ハミルトンのような無名から立身出世を遂げた例はあまり多くない。したがって、ハミルトンは自分が余所者であり、根無し草であるという意識を心の奥底に秘めていた。そうした感情は、有力家系の出であるワシントン、ジェファソン、バーなどとは共有できない感情である。

ハミルトンが言及している「ハーレム」は、マンハッタン島のハーレムのことである。当時は、ニュー・ヨーク市街の郊外にあるのどかな田園地帯。後にハミルトンはそこにHamilton Grangeを建設する。Hamilton Grangeを構えた後、ハミルトンは楽しい家庭生活を送ったようである。それをうかがわせるハミルトンの三男ジェームズによる回想が残されている。


WOMEN:

Helpless! Helpless!

「どうすればいいの。どうすればいいの」


ELIZA:

I do I do I do I dooo! I do I do I do I dooo!

「本当に私は私はどうすれば」


HAMILTON:

Eliza I've never felt so—

「イライザ、もう私には不安はないよ・・・」


WOMEN:

Down for the count And I'm drowin'in 'em

「もうめろめろよ、あなたの瞳に吸い込まれそうよ」


ELIZA:

Hey! Yeah, yeah! I'm Down for the count, I'm—

「ああ、ああ、もうめろめろよ、私は・・・」


Hamilton:

My life is gon' be fine Cuz Eliza's in it. 

「私の人生は素晴らしいものになっている。なぜならイライザがいるから」


WOMEN:

Helpless! Helpless! 

「どうすればいいの。どうすればいいの」


ELIZA:

 I look into your eyes, And the sky's the limit I'm drowin'in 'em. 

「あなたの瞳を覗き込むと空の果てが見えるわ。どうすればいいの」


WOMEN:

Helpless! Down for the count, And I'm drownin'in 'em

「どうすればいいの。もうめろめろよ、あなたの瞳に吸い込まれそうよ」


Hamillton & Eliza's wedding. As Eliza & Alexander exchange rings, the guest sing.


WOMEN:

 In New York, you can be a new man…In New York, you can be a new man…In New York, you can be a new man…

「ニュー・ヨークでなら新たに人生をやり直せる・・・ニュー・ヨークでなら新たに人生をやり直せる・・・ニュー・ヨークでなら新たに人生をやり直せる・・・」


ELIZA:

Helpless.

「どうすればいいの」


ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説11―Satisfied 和訳

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