ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説14―Stay Alive 和訳

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Hamilton is seated. He is writing letter.


ELIZA:

Stay alive…

「無事でいてね・・・」


ELIZA/ANGELICA/ENSEMBLE WOMEN:

Stay alive…

「無事でいてね・・・」


HAMILTON:

I have never seen the General so despondent. I have taken over writing all his correspondence. Congress writes, “George, attack the British forces.” I shoot back, we have resorted to eating our horses. Local merchants deny us equipment, assistance, They only take British money, so sing a song of sixpence.

「こんなに元気がない将軍を見たことないぞ。将軍の通信を全部、私は肩代わりしている。大陸会議は『ジョージ、イギリス軍を攻撃せよ』と書いている。我々は馬を食べようとしていると言い返そう。地元の商人は支援や物資を我々に提供しようとしない。彼らはイギリスのお金をもらってつまらない歌を歌っている」


解説:ジョージ・ワシントンは大陸軍の総司令官であったが、大陸会議の命令に服さなければならなかった。ワシントンと大陸会議の間で何度か戦略が協議されている。補給体制の不備と軍資金の不足による食料の欠乏は深刻であった。地元の商人や農民は、暴落した大陸紙幣を受け取ることを忌避して大陸軍に物資を売ろうとしなかった。その代わりに彼らは金貨や銀貨で支払ってくれるイギリス軍に物資を売った。フィラデルフィアの市民であるロバート・モートンは次のように日記に記している。 

「多くの最も尊敬すべき住民達が彼らが使うことができるすべての影響力を駆使して[大陸]紙幣を支持した一方で、公共の善を尊重しようとしないその他の多くの者達がすぐに必要な物のために正貨を使ってしまった。[正貨を使って欲しい物を]購入することによって束の間の満足を得ることで公共の善を犠牲にしたのだ。というのは、もしこの紙幣の流通が止まってしまえば、紙幣しか合法的なお金を持っておらず、金貨や銀貨を手に入れる手段を持っていない多くの者達が乞食に身を窶すしかない。そして、あらゆる名誉の感覚を失い、同胞の幸福を気に留めず、さらに自分自身の良心さえ放棄している者達が、新参者[イギリス商人]から物資を買ったり、今、本当に物資を必要としている公共の市場で正貨を使うことは、正貨を所有する者が悪しき例を促進して、他のお金の信用を破壊することになる。その結果、我々は正貨を枯渇させることになり、その他のお金は完全に無価値になってしまい、新鮮な食糧を得るための通商ができなくなり、我々の破滅は避けられない。紙幣の下落は、この街だけではなく全大陸に致命的な影響を及ぼしている」

ワシントンの本営でハミルトンは多くの業務をこなしていた。その様子について主計総監を務めたティモシー・ピカリングは次のように書いている。  

「彼[ワシントン]の署名を帯びた公的な手紙に関して、たとえ彼がハミルトンの能力と迅速さを持っていたとしても、彼自身のペンでその膨大な通信を書くことができないことは確かです。検分と署名を受けるために差し出されたあらゆる書類に、彼が時には正しい意見や訂正を加えたことは間違いないと思います。それでも私は、いったいどれだけの手紙が彼自身の起草によるものか疑っています。構成や内容の洗練だけではなく、内容自体も起草者達が考案したものではないかと信じるに足る理由があります。特に[副官の]ハミルトンや[ロバート・]ハリソンはただの書記ではありませんでした。ある日、フォージ渓谷の本営で、ハリソン大佐が将軍の部屋から降りて来て私に『将軍閣下がせめて私に書き出しか、それとも何を書かせようとしているのか教えてくれたらなあ』と眉を顰めながら言ったことを覚えています」

 

Washington enters. Hamilton stands at attention.


WASHINGTON:

The cavalry’s not coming.

「騎兵隊が来ない」


HAMILTON:

Sir!

「ご用は何でしょうか」


WASHINGTON:

Alex, listen. There’s only one way for us to win this. Provoke outrage, outright.

「アレックスよ、聞け。何とか我々が乗り越える方法が1つだけある。敵を挑発するんだ」


HAMILTON:

That’s right.

「その通りです」


WASHINGTON:

Don’t engage, strike by night. Remain relentless ‘til their troops take flight.

「正面から挑まず、夜襲を仕掛ける。敵が諦めて去るまでしつこく粘る」


解説:独立戦争初期に起きた戦闘の反省からワシントンはイギリス軍に正面から挑む危険を避ける戦略を採用していた。できる限り長く大陸軍を存続させてイギリス政府に戦争継続を諦めさせるという方針が採用された。


HAMILTON:

Make it impossible to justify the cost of the fight.

「それでは戦費を調達するのが難しくなります」


WASHINGTON:

Outrun.

「何とか逃げ切ろう」


HAMILTON:

Outrun.

「何とか逃げ切りましょう」


WASHINGTON:

Outlast.

「我慢比べだ」


HAMILTON:

Outlast.

「我慢比べです」


WASHINGTON:

Hit ‘em quick, get out fast.

「敵をすばやく攻撃してすばやく撤退する」


HAMILTON:

 Chick-a-plao!

「そうこなくては」


WASHINGTON:

Stay alive ‘til this horror show is past. We’re gonna fly a lot of flags half-mast.

「恐怖が過去のものになるまで生き続けよう。我々はあまりにたくさんの半旗を掲げすぎた」


解説:半旗は弔意を示すために掲げる。したがって、たくさんの戦死者が出たという意味である。


HAMILTON/LAURENS/LAFAYETTE:

Raise a glass!

「乾杯」


MULLIGAN:

I go back to New York and my apprenticeship.

「私は年期奉公のためにニュー・ヨークに戻る」


LAFAYETTE:

 I ask for French aid, I pray that France has sent a ship.

「私はフランスに支援を求める。フランスが船を送ってくれたらいいな」


解説:独立戦争中、ラファイエットはフランスから支援を獲得するために一時帰国している。ラファイエットの奔走によって後にフランス遠征軍の派遣が実現する。


LAURENS:

I stay at work with Hamilton. We write essays against slavery. And every day’s a test of our camaraderie and bravery.

「私は残ってハミルトンとともに働く。我々は奴隷制に反対する文章を書いている。毎日、我々の友情と勇気が試される」


解説:豊かな奴隷農園主の子供として生まれたローレンスであったが、国外で受けた教育に感化されて奴隷制の撤廃する構想を抱いていた。ハミルトンもそうしたローレンスの考えを支持していた。


HAMILTON:

We cut supply lines, we steal contraband. We pick and choose our battles and places to take a stand. And ev’ry day, “Sir, entrust me with a command,” And ev’ry day,

「我々は敵の補給線を寸断して、捕獲品を盗む。我々は立ち向かうために戦闘と場所を選ぶ。そして、毎日、『指揮権を私に与えて下さい』と言う。そして、毎日・・・」


解説:ハミルトンは副官の仕事に満足せず、独立した部隊を率いて戦いたいと何度もワシントンに要請していた。しかし、当時の大陸軍は指揮官のポストが少なく、ハミルトンの要望はなかなか認められなかった。


WASHINGTON:

 No.

「駄目だ」


HAMILTON:

He dismisses me out of hand.

「彼は私の言い分をあっさり片付ける」


General Charles Lee enters.


HAMILTON:

Instead of me He promotes Charles Lee. Makes him second-in-command:

「彼は私の代わりにチャールズ・リーを起用してナンバー・ツーにつけた」


解説:本来、チャールズ・リーは軍事的経験が豊富だったので大陸軍総司令官に推す声もあった。しかし、外国生まれという点が問題になってナンバー・ツーに落ち着いた。大陸軍が次第に不利になるにつれリーはワシントンの作戦遂行能力に疑念を持つようになり、ワシントンを追い落とす策を練り始めた。


ANGELICA:

Stay alive.

「元気を出してね」


LEE:

Charles Lee. I’m a General. Whee!!!!

「チャールズ・リーだ。私は将軍だぜ」


HAMILTON:

Yeah. He’s not the choice I would have gone with.

「ああ、彼が選ばれたことに私は同意できないね」


HAMILTON/LAURENS/LAFAYETTE:

He shits the bed at the Battle of Monmouth.

「モンマス郡庁舎の戦いで彼は大失態を演じたじゃないか」


解説:チャールズ・リーはモンマス群庁舎の戦いで先行して部隊を率いたが、指揮系統の混乱によってイギリス軍に圧倒された。そこへワシントンが駆けつけてなんとか惨敗を免れた。もともとリーはワシントンと反りが合わず対立することが多かった。 


WASHINGTON:

Ev’ryone attack!

「全員攻撃せよ」


LEE:

Retreat!

「退却せよ」


WASHINGTON:

Attack!

「攻撃せよ」


LEE:

Retreat!

「退却せよ」


WASHINGTON:

What are you doing, Lee? Get back on your feet!

「リー、君は何をしているのか。向き直って戦え」


LEE:

But there’s so many of them!

「しかし、敵はあんなにもたくさんいる」


WASHINGTON:

 I’m sorry, is this not your speed?! Hamilton!

「残念だが君は適任じゃなかったようだ。ハミルトン」


HAMILTON:

Ready, sir!

「準備できています」


WASHINGTON:

Have Lafayette take the lead!

「ラファイエットを先頭に立たせよ」


HAMILTON:

Yes, sir!

「了解です」


LAURENS:

A thousand soldiers die in a hundred degree heat.

「華氏100度の暑さのせいでたくさんの兵士が死んだ」


解説:モンマスの戦いでは気温が華氏100度(摂氏35度以上)に達し、100人程度が熱中症で亡くなっている。


LAFAYETTE:

As we snatch a stalemate from the jaws of defeat.

「我々は壊滅の瀬戸際から救われた」


HAMILTON:

Charles Lee was left behind Without a pot to piss in. He started sayin’ this to anybody who would listen.

「チャールズ・リーはひどいありさまで取り残された。聞いてくれる者には誰にでも彼は吹聴し始めた」


解説:モンマス郡庁舎の戦いの後、リーは軍法会議にかけられて有罪になった。軍法裁判で敗れて猜疑心に駆られたリーは、「人民に対するリー将軍の弁明」という記事を『ペンシルヴェニア・パケット紙』に掲載した。

ハミルトンはモンマス郡庁舎の戦いにおけるワシントンの活躍について以下のような手紙を書いている。その目的は、ワシントンの活躍を称揚してリーの不手際を目立たせ、総司令官の権威を確立することであった。

「私はこれ程、多くの長所を持った将軍を見たことがありません。彼[ワシントン]の冷静さと断固とした態度は尊敬すべきものです。彼は、迫り来る敵の進軍を阻止する対策をすぐに講じ、適切に部隊を配置できるように時間を稼ぎました。それから彼は馬に乗って後方に戻り、各隊が有利な地勢を占めるようにしました。[中略]。アメリカは、ワシントン将軍のこの日の働きで大きな恩恵を受けています。敗走、混乱、そして、不名誉が他ならぬ彼が指揮する全軍に見受けられました。彼自身の良識と不屈の精神がその日の運命を覆しました」

リーの有罪の決め手になったのは、リーが敵の進撃を止める有効な手を打たず、兵士達の退却をワシントンに知らせなかったので有罪とすべきであるというハミルトンの証言である。


LEE:

Washington cannot be left alone to his devices Indecisive, from crisis to crisis. The best thing he can do for the revolution is turn'n Go back to plantin’ tobacco in Mount Vernon.

「ワシントンは戦略を一人では立てられない。不決断のせいで危機に次ぐ危機。彼が革命のためにできる最善のことは、マウント・ヴァーノンに帰ってタバコ栽培をすることだ」


COMPANY:

Ooh!!

「何てことだ」


WASHINGTON:

Don’t do a thing. History will prove him wrong.

「そんなことはしない。彼が間違っていることは歴史が証明してくれる」


HAMILTON:

But, sir!

「ですが・・・」


WASHINGTON:

We have a war to fight, let’s move along.

「我々には戦わなければならない戦争がある。捨て置くように」


LAURENS:

Strong words from Lee, someone oughta hold him to it.

「リーによる非難を誰かが黙らせないといけない」


HAMILTON:

I can’t disobey direct orders.

「私は命令に背けない」


LAURENS:

Then I’ll do it. Alexander, you’re the closest friend I’ve got.

「では私がやろう。アレグザンダー、君は私の最高の親友だ」


HAMILTON:

Laurens, do not throw away your shot.

「ローレンス、命を無駄にするなよ」


解説:「人民に対するリー将軍の弁明」を読んで激怒したジョン・ローレンスは、総司令官の名誉を守るためにリーに決闘を申し込む。介添人は親友のハミルトンである。


ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説15―Ten Duel Commandments 和訳

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