原文&和訳のみ解説なし⇒ミュージカル『ハミルトン』Meet Me Inside 和訳
解説:リーとローレンスの決闘について『アメリカ人の物語』から抜粋する。
ローレンスとリーは向き合って対峙する。両者の距離は互いに六歩しかない。ほぼ同時に銃口が火を噴く。両者とも倒れなかった。ローレンスがピストルに銃弾を再装填しようとした時、リーは負傷したと訴えた。3人がリーの身体を調べると、確かに右脇腹に擦過傷ができていた。
リーは決闘の続行を求めた。ローレンスも同じ意見である。しかし、ハミルトンはローレンスに万が一のことがあってはならないと思って口を挟んだ。決闘の目的は名誉を守ることであって相手の命を奪うことではない。
「もし[リー]将軍に個人的な怨恨がなければ、これ以上、事を荒立てるべきではありません」
リーの介添人もハミルトンの提案に同意した。名誉のために血が流されるか、どちらかが戦闘不能になれば幕引きである。結局、リーは介添人の説得に応じてワシントンに対する侮辱を撤回すると約束した。こうして初冬の決闘は終わった。
軍務停止期間が明けてもリーは復帰できなかった。大陸会議と衝突したせいで解任されたからだ。軍隊を去ったリーは、窓もない掘っ立て小屋にこもって愛犬たちの忠実な瞳を見ながら嘆く。
「人間をわが兄弟と呼べないのであれば、私はおまえ達のような動物になったほうがましだ」
さらにリーは、「この国に来てから私は生きている間、ずっと悪い奴に囲まれていたので、死んでからはそれが続かないように望む」と亡骸を教会以外に葬るように遺言書に記したという。そして、独立戦争の終結を見ずに亡くなった。最期の言葉は「わが勇敢なる擲弾兵よ、我とともに」であった。二頭の愛犬は、主人が埋められた場所からずっと離れようとしなかったという。
なぜリーは表舞台から追放されたのか。あまりに危険なナンバー・ツーだったからだ。そもそもリーの任命は、ワシントンの一存ではなく大陸会議による政治的任命であった。経験豊富な将軍として敬意を受けていたリーを無理に更迭すれば将軍たちの支持を失う恐れがあった。実際、ワシントンはイギリス軍から解放されたリーが戦線に復帰した時、手厚くもてなしている。ゲイツは警戒するほどの人物ではなかったが、リーはその影響力の大きさから放置しておくにはあまりに危険な存在であった。
確かにリーは優れた将軍とは言えなかったが、ワシントンという太陽の輝きに隠された真昼の星のような不運な人物である。秘かにイギリス軍と通じていたと指摘する者さえいる。ワシントンの行動を正当化したい人びとによってリーが汚名を着せられたと考える者も少なくない。
HAMILTON:
Lee, do you yield!
「リー、降参するように」
BURR:
You shot him in the side! Yes, he yields!
「脇腹を撃たれた。リーは降参する」
LAURENS:
I’m satisfied.
「私は満足だ」
解説:ローレンスはハミルトンに「[リーは]ワシントン将軍について最も下劣で最も侮辱的な言葉で個人的に口汚く罵った」と語っていたが、これでようやく腹の虫も収まったようである。
BURR:
Yo, we gotta clear the field!
「さあもう解散だ」
HAMILTON:
Go! We won.
「行こう。我々の勝ちだ」
COMPANY:
Here comes the general!
「将軍がお出ましだ」
BURR:
This should be fun.
「これは面白くなってきたぞ」
Washington enters.
解説:決闘の日は1778年12月23日、場所はフィラデルフィア郊外である。この頃、ワシントンは大陸会議と協議するためにフィラデルフィアのヘンリー・ローレンス邸に滞在していたので決闘の場にいなかったにせよ、耳にする機会はあっただろう。
WASHINGTON:
What is the meaning of this? Mr. Burr? Get a medic for the general.
「いったいこれはどういうことだ。バーよ。リーのために衛生兵を呼べ」
BURR:
Yes, sir.
「わかりました」
WASHINGTON:
Lee, you will never agree with me, but believe me. These young men don’t speak for me. Thank you for your service.
「リー、君と私は意見を違えていたが、私を信じてほしい。この若者達は私を代弁しているわけではないのだ。君の貢献に感謝している」
BURR:
Let’s ride!
「さあ行きましょう」
WASHINGTON:
Hamilton!
「ハミルトン」
HAMILTON:
Sir!
「はい」
WASHINGTON:
Meet me inside.
「私の気持ちを察してくれ」
COMPANY:
Meet 'im inside! Meet 'im inside! Meet 'im inside, meet 'im, meet 'im inside!
「彼の気持ちを察しよう。彼の気持ちを察しよう。彼の気持ちを察しよう。彼の気持ちを察しよう」
Washington & Hamilton, alone.
WASHINGTON:
Son—
「息子よ・・・」
HAMILTON:
Don’t call me son.
「私を息子と呼ばないでください」
WASHINGTON:
This war is hard enough without infighting—
「激しい戦争の最中に内輪揉めなどしている余裕はない」
HAMILTON:
Lee called you out. We called his bluff.
「リーはあなたを非難していました。我々は彼の化けの皮を剥がしただけです」
WASHINGTON:
You solve nothing, you aggravate our allies to the south.
「君は何も解決していない。南部に向かった我々の仲間の状況を悪くしてしまうぞ」
解説:ヨークタウンの戦いが始まる前、ラファイエットは一隊を率いて南部に転戦している。
HAMILTON:
You're absolutely right. John should have shot him in the mouth. That would’ve shut him up.
「まったくその通りです。ローレンスはリーの口を撃つべきでした。そうすれば彼は完全に黙ったでしょう」
WASHINGTON:
Son—
「息子よ・・・」
HAMILTON:
I’m notcha son—
「私は息子ではありません」
WASHINGTON:
Watch your tone. I am not a maiden in need of defending, I am grown.
「よく考えよ。私は守られてばかりの乙女ではないぞ。立派な男だ」
HAMILTON (OVERLAPPING):
Charles Lee, Thomas Conway. These men take your name and they rake it through the mud.
「チャールズ・リーにトマス・コンウェイ。奴らはあなたの名前を踏みにじって汚そうとしていたのです」
解説:ここで名前が挙がっているトマス・コンウェイは「コンウェイの陰謀」でよく知られている人物である。コンウェイの陰謀とは、ワシントンを総司令官から引きずり降ろそうとする陰謀である。歴史家によってその影響については意見がわかれている。以下は『アメリカ人の物語3』からコンウェイの陰謀に関する部分を抜粋。
1777年の軍事作戦で最大の失点はフィラデルフィアの陥落である。それはワシントンの威信に暗い影を落としている。ワシントンは名誉を完全に挽回する機会に恵まれなかった。その一方でホレーショ・ゲイツは「サラトガの英雄」として一身に名望を集めつつある。ワシントンを更迭して代わりにゲイツを総司令官に据えれば戦況を覆せると信じる者がいてもおかしくはない。事実、フィラデルフィアの市民は、「数日内にワシントン将軍がヴァージニアに帰って、指揮権がゲイツ将軍に移譲される」という噂が街の中で流れていたと記録している。また軍部で影響力を強めたワシントンが軍事独裁を目論むのではないかと警戒する者もいた。そうした人びとが大陸会議の内部で蠢動を始める。
陰謀の舞台になったのは戦争委員会である。戦争委員会は、大陸軍の創設に伴って設立された常設委員会である。軍需物資の調達を主な任務とする。これまで慢性的な機能不全に陥っていたが、強力な組織に一新して戦争を効率的に推進しようという計画が進められていた。その背後には、戦争の主導権を総司令官から大陸会議に移すという画策が隠されていた。しかも委員長に指名されたのはゲイツである。それは実質的にゲイツを総司令官に据えるのに等しい。
ラファイエットは、「戦争についてまったく知らない大陸会議の愚かな人びとがあなたのことを値踏みして馬鹿げた比較をしています。つまり、彼らはゲイツに夢中なのです」とワシントンに警告している。アレグザンダー・ハミルトンによれば、戦争委員会の権限は総司令官の権限さえ上回り、敗戦の失態を口実にワシントンを逮捕する小委員会さえ設立されるところであったが、すんでのところで取り止めになったという。
こうした一連の陰謀はコンウェイの陰謀と呼ばれる。その名前の由来は、首謀者とされるトマス・コンウェイである。コンウェイはいつも不機嫌そうな表情を崩さない高慢な男であった。アイルランド生まれでフランス軍士官を務めた経験を持つ。コンウェイにとって大陸軍は、フランス軍でさらに栄進するための足掛かりでしかない。ハミルトンは、「あれほど下劣な誹謗中傷や扇動する者はいない」とコンウェイを酷評している。
ワシントンとコンウェイは仲が悪かった。最初、ワシントンはコンウェイの軍事知識を高く買っていたが、その不服従な態度に我慢できなくなってきた。さらに大陸会議が顕著な戦功もないのにコンウェイを昇進させようとしたことで事態が紛糾する。他の士官たちを無視して先にコンウェイの昇進を認めることはできないとワシントンは大陸会議に苦言を呈す。
ワシントンの反対を知ったコンウェイは敵意を抱く。そして、ゲイツと親しく手紙を交わすようになった。そうした手紙の内容が偶然、アレグザンダー将軍の副官の耳に入った。副官から報告を受けたアレグザンダーは、ワシントンに手紙でそのまま内容を伝える。
副官のジョン・ローレンスが見ている前でワシントンは、アレグザンダーの手紙から言葉を写し取ると、前に「拝啓」と最後に「敬具」、そして、若干の言葉を付け加えてコンウェイに送った。
拝啓。以下のような文面を含む手紙を昨晩、私は受け取りました。コンウェイ将軍からゲイツ将軍に宛てた手紙の中で、『神はわが国を救うように決心されているのに、劣った将軍と悪い議会がそれを駄目にしている』とあります。敬具。
「劣った将軍」とは明らかにワシントンのことだ。この手紙は、一見すると事実のみを伝える手紙である。だからこそかえってワシントンの隠された憤激が行間から垣間見えるようだ。決闘のために黙って篭手を投げつけたようなものである。最初、コンウェイはそのような事実はないと否定したものの、最後には開き直る。
私からゲイツ将軍への手紙があなたに渡って喜ばしい。私が思うに、これは私の考えをあなたに確信させただろうから。
次にワシントンが対決するべき相手はゲイツである。まずゲイツは手紙が偽物であると抗弁した。そして、副官が不注意にもそうした内容を漏らすはずがないと嘯いた。あまつさえゲイツは、ハミルトンに罪をなすりつけようとした。
コンウェイ准将が私へ送った手紙の抜き書きを閣下の手に渡すという背信行為の張本人を突き止めるために、閣下の最大限の力添えいただきたく心からお願い申上げます。かの手紙は盗まれて書き写されたのです。
ゲイツの言い分では、ハミルトンが使者としてやって来た際に書類を盗んだということになる。ゲイツは、「卑劣漢」を処罰するようにワシントンに求める。ワシントンは、そうした不当な要求を一顧だにしなかった。
なぜゲイツはハミルトンを槍玉に挙げたのか。それはハミルトンが羽ペンをふるってワシントンに対する攻撃を覆そうと奮闘していたことに気づいていたからだ。ハミルトンさえ排除すれば、大きな支えを失ったワシントンは総司令官職を投げ出すかもしれない。
結局、ゲイツは手紙が卑劣漢に盗まれたというのは思い違いであり、ハミルトンは無実であると認めた。ゲイツの態度に失望しながらも、ワシントンはそれをまったく表面に出さずに返信を綴る。
すべての人びとと平和に穏やかに交際するのが私の性格です。そして、私と同じく国家の偉大な目標を目指している人びとから個人的な宿恨や反感を受けないようにしたいと真摯に願っています。このような種類のあらゆる行き違いは、結果として非常に有害なものでしかありません。
このようにゲイツを諭したワシントンであったが、内心ではゲイツが自分に対して悪意と敵意を抱いているのではないかという不安を払拭できなかった。ゲイツは自分に取って代わろうと企んでいるのではないか。しかし、そうした陰謀の動かぬ証拠を抑えられたとしても、ゲイツを責めることはできない。なぜならそれは軍内の不和を外部に漏らすことに等しいからだ。そう考えてワシントンは、ゲイツとの正面対決を避けた。
コンウェイの陰謀は、ワシントンと大陸会議がいかに危うい関係にあったのかを示している。ただこれまでのワシントンの行動を見れば、できる限り大陸会議の意思を尊重していることは誰の目にも明かだ。最も批判的な者さえ口をつぐまざるを得ない。ワシントンは、大陸会議の内部にいる支持者の協力を得てコンウェイの陰謀にうまく対処できた。将軍たちもワシントンを強く支持して結束を固めた。結局、コンウェイもゲイツも戦争委員会を辞任した。
WASHINGTON:
My name’s been through a lot, I can take it.
「私の名前にはいろいろあったが、そんなことはかまわない」
HAMILTON:
Well, I don’t have your name. I don’t have your titles. I don’t have your land. But, if you—
「あなたの名前なんてどうでもいいんです。あなたの称号なんてどうでもいいんです。あなたの土地なんてどうでもいいんです。しかし、もしあなたが・・・」
WASHINGTON:
No—
「いや・・・」
HAMILTON:
If you gave me command of a battalion. A group of men to lead, I could fly above my station after the war.
「もしあなたが私に大隊の指揮を執らせてくれるなら。兵士たちの一群を率いれば、きっと私は戦後、のし上がれるに違いありません」
WASHINGTON:
Or you could die and we need you alive.
「でも君は死ぬかもしれない。我々は君に生きていてほしい」
HAMILTON:
I’m more than willing to die—
「死を恐れてなどいません」
WASHINGTON:
Your wife needs you alive, son, I need you alive—
「君の妻は君が生きていてほしいと思っている。息子よ、私も君が生きていてほしい」
Washington reaches out to Hamilton.
HAMILTON:
Call me son one more time—
「私のことをもう2度と息子と呼ばないでください」
解説:ワシントンには実子がおらず、幕僚に集まった若者達をファミリーと呼んで親近感を抱いた。中でもラファイエットとハミルトンに対して親のような愛情を抱いた。ただラファイエットが従順な「息子」であったのに対して、ハミルトンはまったく従順とは言えない「息子」であった。
Hamilton freezes, aware of the line he has crossed.
WASHINGTON:
Go home, Alexander. That’s an order from your commander.
「口を慎め、アレグザンダー。司令官からの命令だ」
HAMILTON:
Sir—
「はい・・・」
WASHINGTON:
Go home.
「さあもう行くんだ」
⇒ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説17―That Would Be Enough 和訳
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