ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説19―History Has Its Eyes On You 和訳

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WASHINGTON:

I was younger than you are now When I was given my first command. I led my men straight into a massacre. I witnessed their deaths firsthand. I made every mistake, And felt the shame rise in me, And even now I lie awake,

「私が初めて指揮官になった時、君よりも若かった。私は兵士たちを率いて虐殺に向かった。私は間近で彼らの死を見た。私はあらゆる過ちを犯したので恥ずかしさが込み上げてくる。今でも私はそれで目が覚める」


解説:この部分はジュモンヴィル事件について言及している。ジュモンヴィル事件について『アメリカ人の物語』から抜粋する。


木々の間に朝日が差し込む中、ワシントンはフランス軍の野営地を見下ろしている。野営地は、岩に囲まれた小さな峡谷にある。どうやらフランス軍の小部隊は、敵軍の接近にまったく気付いていないようだ。朝食のために火を熾そうとしているが、昨夜の雨で濡れたせいで手こずっている。

ワシントンは、ハーフ・キングとモナカトゥーカに相談する。2人の族長は、戦闘態勢を取りながら野営地を囲んで一斉に襲撃するべきだとワシントンに助言する。それはインディアンが森林の中で戦う伝統的な戦術だ。

まずスティーヴンが20人の兵士を引き連れて一方を固める。ワシントンは残りの兵士を率いてもう一方に陣取る。そして、インディアンの戦士達は背後に回って野営地から100ヤード(約90メートル)の距離までにじり寄る。

ワシントンはすべての手筈が整うのを固唾を呑んで待つ。早鐘のように心臓が打っている。

一斉に襲撃しようと決めていたにもかかわらず、7人のインディアンの戦士は一向に攻撃を仕掛けようとしない。攻撃を開始したのは正面に回った兵士達だ。隠れ場所から立ち上がってワシントンは攻撃命令を下す。

静寂を破って銃声が響き渡る。

フランス軍の兵士達は銃を取ろうと慌てふためく。

銃弾がワシントンを掠めてすぐ傍にいた兵士を貫く。その兵士は声もなく倒れ、再び立ち上がることはない。

ワシントンの命令に従って2度目の一斉射撃が行われ、フランス兵 が次々に倒れる。

スティーヴンの一隊もフランス兵を取り囲んで何人かを捕える。

逃げようとしたフランス兵は、両手を頭上に挙げながら戻って来る。背後にインディアンの戦士達が忍び寄っていたのに気付いて、彼らの手に落ちるよりはイギリス人に降伏したほうがましだと考えたようだ。

インディアンの戦士達は結局、ほとんど攻撃に加わらず、ただ倒れたフランス軍の兵士達の頭皮を剥いでいる。

銃火が止み、生き残りのフランス人はすべて武器を降ろす。ワシントンは彼らの降伏を受け入れる。

この僅か15分間の交戦でフランス軍は、指揮官のジョゼフ・クーロン・ド・ジュモンヴィル少尉をはじめ10人の死者と1人の負傷者を出し、21人が捕虜になった。どうやら逃れることができたのは1人だけのようだ。

ジュモンヴィルをとどめを刺したのは他ならぬハーフ・キングであった。ハーフ・キングは、ジュモンヴィルの頭蓋骨をトマホークで打ち砕き、溢れ出た脳味噌に手を浸した。

イギリス側の損害は、1人の死者と2、3人の負傷者のみであった。戦闘が終わった時、太陽は完全に上り、勝利を誇る兵士達の顔を赤々と照らし出していた。

戦闘が起きた場所は、現在のペンシルヴェニア州ユニオンタウン付近である。

フランス側はこの戦闘をジュモンヴィル事件と呼び、「残虐なワシントン」による暗殺だとして非難することになる。ジュモンヴィルはイギリスに退去を求めるために派遣された外交使節であったから、奇襲を仕掛けて殺害することは背信行為に他ならず、暗殺であるという論理だ。

その一方でイギリス側は、ジュモンヴィル一行を戦闘準備のための偵察部隊だと見なして先制攻撃を行ったと主張する 。

イギリス側とフランス側の主張のどちらが正しいか。それは非常に難しい問題である。奇襲を行うというワシントンの判断は正しかったのか。それとも卑劣な「暗殺」だったのか。

ワシントンの代表的な伝記を執筆したジェームズ・フレクスナーは、「この事件があまりに度々、見過ごされているのは、[歴史家が]ワシントンの後の業績によって光を当てようとすることで、いかにワシントンが大失敗をやらかしたかを糊塗しようとしているからだ」と糾弾している。

もし誰かがワシントンの偉大さを称揚するために歴史を書こうとすれば、ジュモンヴィル事件は鬼門なのだ 。そういう者達は、偉大なワシントンが卑劣な「暗殺」を行った可能性があると考えることすら拒否するだろう。

私はワシントンが偉人であると考えているものの、同時に欠点もある人間であったことも指摘したいと考えている。光も影も描かなければ、その人物を本当に知ったことにはならない。また影があるからこそ光は際立つ。この世にまったく落ち度も欠点もない人間など存在するだろうか。

1つ思い出してもらいたいことがある。出征する前にワシントンがディンウィディから受け取った命令だ。重要なので再確認しておこう。

「国王陛下の名の下に我々のフロンティアの入植地の後背地からオハイオ川に至るまでのすべての土地を占領せよ。もしそれを妨害する外国の軍隊があれば、まず彼らに退却するように使者を送るように。もしそれでも彼らが砦の建造を妨害しようとする場合、武力には武力で抗せよ」

この命令をワシントンは守っているだろうか。特に「彼らに退却するように使者を送るように」という指示はどうだろう。ワシントンがそれを守っていないことは明らかである。なぜならワシントンがジュモンヴィルの部隊に事前の警告なしで奇襲を仕掛けたことは、ワシントン自身の記述も含めてほぼすべての史料が一致して認めているからだ。

しかし、戦闘のその後の推移については意見が食い違っている。ワシントン自身が残した史料によれば、フランス軍は降伏するまで組織的な抵抗を行ったとある。つまり、ワシントンの言い分は、正々堂々と銃撃を交わしたということである 。

しかし、フランス側の見解は真っ向から対立する。それは戦闘に参加した1人の兵士の証言による。

イギリス側が一斉射撃を行った後、ジュモンヴィルは停戦の合図を送ったという。するとイギリス人達はその周りに集まって、ジュモンヴィルがフランス国王の勢力圏から直ちに退去するように求める旨を布告するのを聞いた。それにもかかわらず、ジュモンヴィルは殺害された。

結局、イギリス側とフランス側のどちらの主張が正しいか答えは出ていない。

ただ1つだけ言えることは、ワシントンが故意にジュモンヴィルを「暗殺」しようとしたわけではないが、総督代理から受けた命令の範疇を越えて攻撃したことは確かである。そのことについてでワシントンは批判を免れることはできない。ジュモンヴィル事件がワシントンの軍歴における大きな汚点であることは間違いない。


WASHINGTON:

Knowing history has its eyes On me.

「歴史が私に目を向けていることを私は知っている」


解説:2021年の大統領就任式でアマンダ・ゴーマンが使った“History has its eyes on us”というフレーズはこの歌詞の影響を受けている。 


LAURENS/MULLIGAN:

Whoa, whoa, whoa Whoa...Whoa...Yeah.

「まさにまさにまさに」


HAMILTON/WASHINGTON:

History has its Eyes on Me. 

「歴史が私に目を向けていることを私は知っている」


COMPANY:

Whoa, whoa, whoa Whoa...Whoa...Yeah.

「まさにまさにまさに」


WASHINGTON:

Let me tell you what I wish I’d known When I was young and dreamed of glory. You have no control.

「私が若く栄光を夢見ていた時、知りたかったことを君に伝えたい。君は自分を抑えられない」


解説:ジュモンヴィル事件を起こした時、ワシントンは22歳、この当時、ハミルトンは26歳である。


WASHINGTON AND COMPANY:

Who lives, who dies, who tells your story.

「誰が生き、誰が死ぬのか、そして、誰が君の話を伝えるのか」


WASHINGTON:

I know that we can win. I know that greatness lies in you. But remember from here on in.

「我々が勝つとわかっている。君が偉大だとわかっている。しかし、よく覚えておけ」


WASHINGTON/HAMILTON AND MEN:

History has its Eyes on you. 

「歴史が君に目を向けていることを」


ENSEMBLE:

Whoa, whoa, whoa Whoa…Whoa…

「まさにまさにまさに」


COMPANY:

History has its eyes on you.

「歴史は君に目を向けている」


解説:こうした歴史意識をアメリカ人は強く持っていた。広大な領域に跨がる共和制を樹立するという「実験」に失敗すれば世界の人々から笑い者にされるといった強烈な自己意識があった。それは建国以降、現代まで続くアメリカの歴史意識である。またワシントン自身も後世の人々にどのように見られるかを強く意識していた。それはワシントンが自分の関連文書の保管に非常に注意を払っていたことからわかる。つまり、ここでは後世の評価を考慮に含めて自らの行動を戒めるようにワシントンが自らの経験からハミルトンを諭している。


ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説20―Yorktown 和訳

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