ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説31―Cabinet Battle #2 和訳

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Washington, Hamilton & Jefferson, back in the cabinet.


WASHINGTON: 

The issue on the table. France is on the verge of war with England. Do we provide aid and our troops to our French allies or do we stay out of it? Remember, my decision on this matter is not subject to congressional approval. The only person you have to convince is me. Secretary Jefferson, you have the floor, sir.

「さあ議題だ。フランスはイギリスと戦争の瀬戸際だ。我が盟友たるフランスに支援と援軍を差し向けるべきか、それとも局外中立を守るべきか。分かっているな、この問題に関する私の決定には議会の承認が必要ないと。私さえ納得させられればよい。ジェファソン長官、発言せよ」


解説:ワシントンが大統領に就任した年、すなわち1789年に始まったフランス革命は、1792年4月、フランス革命戦争の勃発で新たな局面を迎えた。独立戦争時に結んだ同盟条約がそのまま残っていたアメリカは、フランスに味方するか否か決断を迫られた。憲法に明確な規定はないが、条約の承認や大使の任命などを除けば、外交は大統領の専権事項と見なされている。ジェファソンに真っ先に発言を求めたのは、ジェファソンが外交を取り仕切る国務長官だからである。


JEFFERSON: 

When we were on death’s door. When we were needy. We made a promise. We signed a treaty. We need money and guns and half a chance. Uh, who provided those funds?

「我々が死の瀬戸際にいた時。我々が助けを求めていた時。我々は約束を結んだ。我々は同盟条約を締結した。我々はお金と銃、そして、ちょっとした希望を必要としていた。ああ、誰がお金を出してくれたのか」


解説:独立戦争中、イギリスを敵に回して苦戦していたアメリカは、フランスの助力で最終的に勝利できた。ジェファソンはフランス革命の理念に共鳴していたのでできればフランスを支援したいと考えていた。


MADISON: 

France.

「フランス」


JEFFERSON: 

In return, they didn’t ask for land. Only a promise that we’d lend a hand. And stand with them If they fought against oppressors, And revolution is messy but now is the time to stand. Stand with our brothers As they fight against tyranny. I know that Alexander Hamilton is here and he Would rather not have this debate. I’ll remind you that he is not secretary of state. He knows nothing of loyalty. Smells like new money, dresses like fake royalty. Desperate to rise above his station, Everything he does betrays the ideals of our nation. 

「見返りにフランスは土地を求めたりしなかった。ただいざとなったら我々に手を貸してほしいと約束しただけ。もしフランスが圧制者と戦うならともに立ち上がろう。革命が危機にある今こそ立ち向かう時。専制者と戦う我が兄弟達とともに立ち上がろう。アレグザンダー・ハミルトンがここにいるが議論に加わらないほうがいいだろう。よく思い出すように、ハミルトンが国務長官ではないことを。誠実とは何かなんてハミルトンは知らないぞ。新しいお金のようにぷんぷん匂うし、僭称者のように着飾っているぞ。のしあがろうと一生懸命なあまりに我が国の理想をことごとく裏切っているぞ」


解説:同盟条約でフランスがアメリカに求めた条件は、主に北アメリカのフランス植民地の保護である(フランス領アンティル諸島の防衛義務)。本来、外交は国務長官の管轄だが、ハミルトンは多くの事柄に干渉していた。この当時、行政府の中で最大の部署はハミルトンが長官を務める財務省であった。


ENSEMBLE: 

Ooh!!

「おおお」


JEFFERSON: 

And if ya don’t know, now ya know, Mr. President.

「もうこれでおわかりでしょう、大統領閣下」


解説:ジェファソンは常々、ハミルトンが耄碌したワシントンを騙していたと信じていた。しかし、ワシントンの判断力はまったく衰えていなかった。


WASHINGTON: 

Thank you, Secretary Jefferson. Secretary Hamilton, your response.

「ありがとう、ジェファソン長官。ハミルトン長官、意見を」


HAMILTON: 

You must be out of your goddamn mind If you think The President is going to bring the nation to the brink Of meddling in the middle of a military mess, A game of chess, Where France is Queen and Kingless. We signed a treaty with a King whose head is now in a basket. Would you like to take it out and ask it? "Should we honor our treaty, King Louis’s head?“ "Uh...do whatever you want, I’m super dead.”

「君は憂さが晴れるのか。大統領が国民を兵乱に干渉させようとするなら。女王も国王もいないフランスでごたごたに巻き込まれるなら。我々が同盟条約を交わした国王の首なら今、バスケットの中にある。我々は国王の首を取り出して聞けばいいのか。『我々は条約を守るべきか、国王ルイの首よ』、『なあに好きなようにするがよい。なにしろ私はすぐく死んでいるからね』」


解説:国王夫妻が斬首されたことはすでにアメリカに伝わっていた。そもそも独立戦争中にアメリカと同盟を結んだのはブルボン王家であり、そのブルボン王家が打倒された今、同盟条約を守る必要は無いとハミルトンは論じている。


WASHINGTON: 

Enough. Enough. Hamilton is right.

「もうよい。もうよい。ハミルトンの言うとおりだ」


JEFFERSON: 

Mr. President—

「大統領閣下」


WASHINGTON: 

We’re too fragile to start another fight.

「我々はまた戦争を始めるにはあまりに弱国だ」


解説:当時の連邦軍の規模は、その当時、起きた北西部インディアン戦争で一時拡張されたものの、外国と戦える規模ではなかった。


JEFFERSON: 

But sir, do we not fight for freedom?

「しかし、自由のために戦わないのですか」


WASHINGTON: 

Sure, when the French figure out who’s gonna lead ‘em.

「ではフランス人は誰が彼らを導いているのかわかっているのか」


JEFFERSON: 

The people are leading—

「人民が導いているのです」


WASHINGTON: 

The people are rioting. There’s a difference. Frankly, it’s a little disquieting that you would let your ideals blind you to reality. Hamilton.

「人民は暴動を起こしているだけだ。まったく違うことだ。すなわち騒乱なのだが、君は理想のせいで現実が見えていない。ハミルトン」


解説:ワシントンが考える「自由」とジェファソンが考える「自由」は少し異なる。ワシントンが保守的である一方で、ジェファソンは急進的であった。ワシントンは「自由」と「放縦」という概念を慎重にわけていた。人民に無軌道に自由を与えれば、勝手気ままに行動して放縦に陥る。それを避けるためには人民に道徳を持たせる必要があるとワシントンは考えていた。その一方でジェファソンも人民に道徳が必要だと認めながらも自由の理想のためにはある程度の流血もやむを得ないと考えていた。


HAMILTON: 

Sir.

「はい」


WASHINGTON: 

Draft a statement of neutrality.

「中立宣言を起草せよ」


解説:実際に中立宣言を起草したのは、ハミルトンではなくエドモンド・ランドルフ司法長官である。


Washington exits.


JEFFERSON: 

Did you forget Lafayette?

「ラファイエットのことを忘れたのか」


HAMILTON: 

What?

「何と」


JEFFERSON: 

Have you an ounce of regret? You accumulate debt, you accumulate power, Yet in their hour of need, you forget.

「まったく恥ずかしく思わないのか。君は公債を増やして権力をほしいままにしているだけで、この大変な時にラファイエットのことを忘れている」


HAMILTON: 

Lafayette’s a smart man, he’ll be fine. And before he was your friend, he was mine. If we try to fight in every revolution in the world, We never stop. Where do we draw the line?

「ラファイエットは賢い男です。きっと大丈夫。あなたがラファイエットと友達になる前から私は友達です。もし我々が世界のあらゆる革命で戦おうとするなら我々は決して止まれません。我々はどこに区切りをつければよいのか」


解説:実際はラファイエットは大丈夫ではなかった。革命の動乱に巻き込まれたラファイエットは収監されていた。ラファイエットが解放されるまで5年の歳月を費やしている。


JEFFERSON: 

So quick-witted.

「物は言いようだな」


HAMILTON: 

Alas, I admit it.

「ええ、そうですね」


JEFFERSON: 

I bet you were quite a lawyer.

「なかなかの弁護士だったようだな」


HAMILTON: 

My defendants got acquitted.

「私の被告は無罪放免を勝ち取りました」


JEFFERSON: 

Yah. Well, someone oughta remind you.

「誰かが君のことを覚えているといいな」


HAMILTON: 

What?

「何と」


JEFFERSON: 

You’re nothing without Washington behind you.

「背後にワシントンがいなければ君は何もできないからな」


Washington re-enters.


WASHINGTON: 

Hamilton!

「ハミルトン」


JEFFERSON: 

Daddy’s calling!

「パパがお呼びだぞ」


解説:ワシントンがハミルトンを重用するのは、若い頃に西インド諸島に行った時にもうけた隠し子だからではないのかという醜聞があった。もちろん事実無根である。


Hamilton exits after Washington, eyes on Jefferson.


解説:中立宣言に関するジェファソン=ハミルトン議論の詳細は以下の通りである。

1793年4月18日、今後、アメリカが保つべき外交方針についてワシントンは13の質問からなる手紙を閣僚に送る。最も重要な質問は、「合衆国市民がイギリスとフランスの間の戦争に介入しないようにするために宣言を発表すべきか。中立の宣告を含むべきか否か」である。他の質問をまとめると次のようになる。

フランスの君主政が崩壊した今、米仏同盟は拘束力を持つのか。アメリカは同盟を廃棄するべきか、それとも維持するべきか。フランスの情勢が明らかになるまで条約を一時差し止めるべきか。フランスの戦争は侵略戦争か、それとも防衛戦争か。戦争の性質は米仏同盟にどのような影響を与えるか。新しいフランス公使を接受すれば、アメリカがフランス革命政府を承認したことになるのか。

質問の一覧を見たジェファソンは、あまりにフランスに対して懐疑的なので、ハミルトンが裏で糸を引いているのではないかと疑う。それにランドルフも大統領の質問とそっくり同じ内容をハミルトンから事前に聞いていた。だが質問は、ハミルトンの手ではなくワシントン自身の手によって書かれたものだ。

翌日、閣議が開かれる。危機に際して重要なことは、まず全員が同意できることから決定することだ。現状の確認が行われる。米仏同盟の規定によれば、アメリカはフランス領アンティル諸島を防衛する義務を負っている。しかし、アメリカは脆弱な軍事力しか持たない。防衛義務を果たせない。したがって、中立の維持が最善の方策である。

今回の危機を議会に相談すべきか。議会は今、休会中である。大統領の権限で議会を招集するべきか。否、徒に危機感を煽るだけだ。議会を特別招集する必要はない。

ここまではよかった。ただ中立を具体的にどのように行うかについてハミルトンとジェファソンの間で3日間にわたって激しい議論が続いた。

ハミルトンは、政体の変更によって米仏同盟による義務から解放されると主張した。したがって、新しいフランス公使も接受すべきではない。即座に厳密な中立宣言を出すべきである。そもそも米仏同盟もフランスがイギリスを打倒するという目的で結ばれたものである。アメリカの独立と自由を獲得するという大義に共感したわけではない。

フランスが我々に手を貸してくれた第1の動機は、大英帝国を粉々に打ち砕いて大嫌いな強敵を弱らせることだったのは明らかです。独裁的な宮廷[フランス王家]が人民による革命を手助けしたのは、自由を尊重したからだとか、そうした革命の主義に対する友愛だからとか考えるようなお人好しは愚か者に他なりません。

それにアメリカには安定と繁栄の期間が必要である。とても戦争する余裕はない。アメリカが過度にフランスに肩入れしているという誤解を世界に与えないために、フランス公使を接受すべきではない。

確かにフランス革命の「自由、博愛、平等」という目的は素晴らしいが、その目的を達成するための血腥い手段ははたして正しいと言えるのか。旧制度を徹底的に破壊して法と秩序を否定することが真の革命なのか。

[自由を求める戦いが]寛大、正義、人間性を伴って行われる場合には、当然、人間性を尊ぶすべての者から賞賛を集めます。しかし、もし犯罪や無思慮な行為に汚されれば、それは尊敬に値しません。

もはやアメリカ独立革命とフランス革命は別物である。前者は「正義の精神と人間性」に導かれ、法と秩序に則った革命であったが、後者はそうではない。人類の夢を実現しようと始まった筈のフランス革命は、今や独裁に堕落して無差別の虐殺に耽溺して血に酔い痴れている。

ジェファソンはハミルトンの意見に間髪入れずに反論する。政体が変更されても米仏同盟はアメリカ国民とフランス国民の間の同盟として継続する。参戦以外の方法でできる限りフランスを支援するべきだ。したがって、新しいフランス公使を接受すべきである。また独立戦争時に君主政体からの支援をアメリカが受け入れたのにも拘らず、逆に今度は共和政体を支援しないのはおかしい。フランス革命の「自由、平等、そして博愛」という理念は、「生命、自由、そして、幸福の追求」というアメリカ革命の理念の継承である。かつてフランスがアメリカの独立を助けたように、今度はアメリカがフランスの革命を助けるべきである。

ハミルトンとジェファソンのこうした対立は、両者の外交指針の本質的な相違に根差していた。

ハミルトンは、自由と秩序の均衡が保たれているイギリスと友好関係を結ぶべきだと考えていた。そうした友好関係は、国家の繁栄と安定を必要しているアメリカにとって有益である。イギリスとアメリカの利害は対立してない。むしろ補い合っている。事実、アメリカの最大の貿易相手はイギリスである。アメリカは事実上、イギリスに経済的に依存している。

その一方でジェファソンは、イギリスへの依存から脱却するためにフランスと関係を緊密化することがアメリカにとって最も有益であると考えていた。

議論が続く。中立宣言をいつ発表すべきか。

ジェファソンは、アメリカが立場を明らかにする必要に迫られるまで中立を公式に宣言する必要はないと主張する。発表の時期を遅らせれば、外交交渉のカードとして利用できる。一先ず時間稼ぎをして他国にアメリカの中立を要請させたほうがよい。そうすればアメリカは臆病者の謗りを免れて体面を保てる。

ハミルトンはジェファソンに反駁する。国際法の原理に基づいてアメリカはすぐに中立宣言を発表しなければならない。

今度はジェファソンが別の論点から中立宣言に反対する。連邦議会のみが宣戦布告する権限を持っているので、大統領には中立宣言を発表する権限はない。大統領ができることは、アメリカが平和状態であることを人民に宣言することだけである。

両者の意見を聞いて大統領はどのような判断を下したのか。

ハミルトンの意見に従って、まず中立宣言をすぐに発表する。

ただジェファソンの勧めに従って、宣言の文面に「中立」という言葉は一言も盛り込まず、「交戦諸国に対して友好的かつ公平な行動を採用し追求する」という表現に留める。フランスへの配慮である。「中立宣言」という呼称もハミルトンが後に付けた。現代の我々もハミルトンに倣って「中立宣言」と呼んでいるに過ぎない。

ワシントンはもう一つジェファソンの意見を認めている。新しいフランス公使を接受すべきだという意見である。

大統領の決定に沿ってランドルフ司法長官の手で中立宣言が起草される。外交に関する事柄にもかかわらず、なぜ国務長官のジェファソンが起草していないのか。ワシントンなりの考えがある。ジェファソンに起草を任せれば過度にフランスに肩入れするかもしれない。かと言ってハミルトンに中立宣言を書かせればジェファソンの反感を買う。

そうした事態を避けるためにワシントンは穏健なランドルフに起草を命じた。ランドルフの草稿を読んだジェファソンは内容に不満を抱いて「優柔不断」と評している。その「優柔不断」な中立宣言は、1793年4月22日、国民に対して発表された。

オーストリア、プロイセン、サルディニア、イギリス、オランダとフランスの間で戦争状態が存在することは明らかであるが故に、合衆国の義務と利害によって、誠実と善意を以って交戦諸国に対して友好的かつ公平な行動を採用し追求することが求められる。したがって、私は、こうした現在の状況によって、各国に対して上述の行動を遵守するという合衆国の意向を宣言して、合衆国市民にそうした意向に反するすべての行為や行動を慎重に避けるように諭告して警告することが適切だと考えた。そして、私はこれにより、合衆国市民は何人といえども、先述の諸国に対する敵対行為を行うか、支援するか、もしくは扇動する者は、国際法の下に、処罰、または[資産の]没収を免れ得ず、また諸国の現行慣習法に基づいて密輸と見なされる品目を交戦諸国に持ち込む者は、処罰や没収を被っても合衆国の保護を受けられないと通告する。さらに合衆国に属するすべての公職者に、合衆国裁判所の管轄内で、交戦諸国、もしくはそのいずれかに関して国内法を侵害するすべての者に対して訴追を開始するように指令を与える。

中立宣言の発表は、大統領が上院に諮らずに主導的に外交を取り仕切る重要な先例になった。またアメリカがヨーロッパの紛争に距離を置くという孤立主義の先例にもなった。ワシントンは冷徹な現実主義者である。国家の政策は親密の情や嫌悪の情といった感情ではなく、あくまで国益に沿って決定すべきだと信じていた。


⇒ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説32―Washington On Your Side 和訳

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