ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説35―The Adams Administration 和訳

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BURR:

How does Hamilton the short-tempered protean creator of the coast guard, Founder of the New York Post Ardently abuse his cabinet post Destroy his reputation? Welcome folks, to

「沿岸警備隊とニュー・ヨーク・ポスト紙の創設者にして短気で変幻自在のハミルトンはどのようにして閣僚の地位を濫用して評判を落としたのか。さあ皆さん、ようこそ・・・」


BURR, COMPANY:

The Adam’s Administration!

「アダムズ政権へ」


BURR:

Jefferson’s the runner-up, which makes him the vice president

「ジェファソンは次点になって副大統領になった」


解説:1796年の大統領選挙でジェファソンは、ジョン・アダムズに次ぐ68票を獲得した。アダムズとは僅かに3票差で副大統領職への就任が決定した。当時の大統領選挙は現代の大統領選挙と制度が異なっており、大統領候補の中で得票数が次点になったものが副大統領に選ばれていた。したがって、連邦派のアダムズと民主共和派のジェファソンが正副大統領に選ばれるという事態が起きた。現在はそうした事態を避けるために正副大統領がセットで選ばれる仕組みになっている。

1796年の大統領選挙で68票を獲得したジェファソンであったが、それは予想以上の得票であったらしい。マディソンに向けてジェファソンは、「副大統領職は私が受けるか受けないか自分自身でまったく決めることができない職です」と述べている。また「私は人生においてアダムズよりも後輩です。議会においても後輩ですし、外交でも後輩ですし、我が国の文民政府においても後輩なのです」と語っている。さらにアダムズに向かっては12月28日に「私は決して大統領職を望んでいたわけではありません。私以上に純粋かつ公平無私にあなたを祝福する者はいないでしょう。私は人間を支配しようという野望はありません。それは苦痛に満ちた感謝されない職です。あなたの政権が栄光で満たされますように」と述べている。

ジェファソンは、アダムズを「ハミルトンの介入に対する唯一の確かな防壁となる」人物だと考えていた。惜しくも大統領の椅子は逃したものの、アダムズとの連携は次善の策として悪い策ではなかった。それ故、ジェファソンは副大統領職を辞退しなかった。とはいえ、副大統領職はジェファソンにとって「名誉であり簡単」であったが、「非常に苦痛」でもあった。一方でアダムズは政界に復帰したジェファソンについて「不思議なことはない。政治という植物は日陰でどれだけの成長を見せることか」と妻のアビゲイルに語っている。


JEFFERSON:

Washington can’t help you now, no more mister nice president.

「もうワシントンはおまえを助けてくれないぞ。もうおまえの素敵な大統領閣下はいないんだ」


BURR:

Adams fires Hamilton. Privately calls him creole bastard in his taunts.

「アダムズはハミルトンをお払い箱にした。こっそりとハミルトンを混血の私生児と嘲っていた」


解説:ハミルトンはワシントン政権期間中に財務長官を退任している。ただ後任の財務長官やその他のアダムズ政権の閣僚はハミルトンの強い影響下にあった。アダムズはそれを快く思っておらず、しばしば閣僚と衝突した。


JEFFERSON: 

Say what!

「何と」


BURR:

Hamilton publishes his response.

「ハミルトンは反駁を発表した」


—CUT LYRICS—


HAMILTON:

An open letter to the fat Arrogant Anti-charismatic national embarrassment Known as President John Adams

「ジョン・アダムズ大統領として知られる太った横柄で嫉妬心丸出しの国民の厄介者への公開書簡」


BURR:

Shit

「何だよ」


HAMILTON:

The man's irrational, he claims that I'm in league With British in some vast international intrigue. Trick, please. You wouldn't know what I'm doin', You're always goin' berserk But you never show up to work Give my regards to Abigail Next time you write about my lack of moral compass At least I do my job upon in this rumpus

「馬鹿げたことにアダムズは私がイギリスと手を組んで国際的な陰謀を進めていると言っている。冗談は止めてくれ。おまえは私がしていることをちっともわかっていない。いつも怒り狂っていただけ。でもおまえは仕事をしに来ない。アビゲイルによろしく伝えたいね。またおまえは私の道徳心が欠如していると書くかもしれない。私は騒ぎの渦中でも仕事を進める」


解説:アダムズは妻のアビゲイルに次のような手紙を送っている。

すべての連邦派はワシントン以外の人物を受け入れるのを恐れているようです。ジャコバン派の新聞はやる気のない褒め言葉を並べ、ごまかしと入れ知恵で批判しています。もし連邦派が悪ふざけをしようとするのであれば、私は職を辞して、もしジェファソンが望めば彼らを導いて平和、富、そして権力を得られるようにするでしょう。私が今、置かれている状況からすれば、私が以前、疑い、思い描いていた以上の野心、そして我が政府を混乱させるような争いがあるようです。警戒心と競い合いは私の主題であり、抑制と均衡が解毒剤となります[中略]。事態がどのように進展するか私は見ています。次の選挙では、イギリスがジェイかハミルトンを擁立し、フランスはジェファソンを擁立するでしょう。もしアメリカの精神が『ジョン・ブル[イギリス]もルイ・バブーン[フランス]も必要ない』と言って奮起させられなければ、ポーランドのような腐敗が導入されるでしょう。

1796年の大統領選挙でハミルトンは、副大統領候補のトマス・ピンクニーを大統領にしようと秘かに画策していた。アダムズが自己中心的で勝手気ままな人物で大統領として資質に欠けるとハミルトンは判断したからである。事実、アダムズは誰かが自分の名声を貶めているのではないかと根拠無く思い込むようなこともあったし、しばしば癇癪を起こすこともあった。そこでハミルトンは連邦派に属する選挙人に、アダムズとピンクニー両方に票を投ずるように伝達した。南部で優勢であったピンクニーが北部でもアダムズと並べば、総計で最も多く票を獲得して大統領に選ばれる可能性が十分にあるとハミルトンは予測していた。


COMPANY:

Oh!

「ああ」


HAMILTON:

The line is behind me I crossed it again Well, the President lost it again. Aww, such a rough life Better run to ya' wife Yo, the boss is in Boston again. Lemme ask you a question: Who sits At your desk when you're in Massachusetts? They were calling you a dick back in 'seventy-six And you haven't done anything new since! You nuisance with no sense! You will die of irrelevance! Go ahead: You can call me the Devil You aspire to my level, You aspire to malevolence! Say hi to the Jeffersons! And spies all around me, Maybe they can confirm I don't care if I kill my career with this, I am confining you to one term.

「もう耐えられない。私は限界を越えた。アダムズはまた音信不通だ。ああそんな大変な生活ならおまえは妻のところに行きたくなるかもね。ボスはボストンにまたいるよ。では聞いてみよう。おまえがマサチューセッツにいる時、誰がデスクに座っているのか。おまえは1776年までさかのぼって嫌な奴を呼ばれ始めているぞ。それ以来、おまえは何も新しいことをしていない。おまえは良識がない不快な奴だ。おまえは誰にも知られずに死ぬだろう。いいか。おまえは私を悪魔と呼ぶ。おまえは私と肩を並べたがっている。おまえは悪意を投げつけたがっている。ジェファソン一味に挨拶しよう。私の周りに密偵がたくさんいる。彼らは私がこのことでキャリアを無駄にするかどうかなんて気にしないことを確かめるだろう。私はおまえに一期しか大統領をやらせない」


解説:ミランダによる注釈によれば、You nuisance with no sense!とYou aspire to my level, You aspire to malevolence!は言葉遊びである。

アダムズは妻のアビゲイルが病気がちだったのでマサチューセッツ州にある自宅に長期間滞在してほとんどワシントンにいなかった。

前述のようにハミルトンは既に財務長官の職を退いていたが、閣僚は事あるごとにハミルトンの裁量を密かに仰いでいた。ワシントン政権下でハミルトンは、連邦政府の財政的基盤を整備したが、アダムズはそうした計画に対して概ね賛成していた。しかし、アダムズはハミルトンに強い不信感を抱いていた。1796年の大統領選挙におけるハミルトンの画策をアダムズが知ったことが原因の一つである。閣僚との確執は彼らの背後にいるハミルトンとの確執であったと言える。

1800年5月、遂に確執は最終局面を迎えた。次期大統領候補にチャールズ・コッツワース・ピンクニーを担ぎ出そうとハミルトンが陰謀をめぐらせていると確信したアダムズは、5月5日、ハミルトンの影響下にある陸軍長官ジェームズ・マクヘンリーに辞職を要求した。翌日、マクヘンリーは辞職した。さらに5月10日、アダムズは同じくハミルトンの影響下にある国務長官ティモシー・ピカリングにも辞職を要求した。しかし、ピカリングは12日の手紙で辞職する意思がないことを示した。止むを得ずアダムズはピカリングを罷免した。こうした一連の更迭は大統領が自らの判断のみで閣僚の交代を命じることができることを示した。しかし、これは連邦派の分裂を早める結果をもたらした。

アダムズ政権に失望したハミルトンは10月24日、54ページからなる「合衆国大統領ジョン・アダムズ氏の公的行為と性格に関するアレグザンダー・ハミルトンからの書簡」を発表してアダムズを攻撃した。


—CUT LYRICS—


HAMILTON:

Sit down, John, You fat mother-[BLEEP]er.

「くたばれ、ゲス野郎のジョン」


Hamilton drops a thick tome of paper on the floor. The Company explodes.


BURR:

Hamilton is out of control.

「ハミルトンは気が狂ってしまった」


MADISON:

This is great! He’s out of power. He holds no office. And he just destroyed President John Adams, the only other significant member of his party.

「よしよし。ハミルトンを追い出したぞ。ハミルトンには官職がない。ハミルトンが連邦派の重鎮であるジョン・アダムズ大統領をやっつけている」


JEFFERSON:

Hamilton’s a host unto himself. As long as he can hold a pen, He’s a threat.

Let’s let him know what we know.

「ハミルトンは自分自身のために何かやるぞ。ペンを執り続ける限り、ハミルトンは脅威だ。我々が知っていることを奴に教えてやるのだ」


ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説36―We Know 和訳

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