ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説40―Blow Us All Away 和訳

原文&和訳のみ解説なし⇒ミュージカル『ハミルトン』Blow Us All Away 和訳


Philip Hamilton enters, now nineteen years old.


PHILIP:

Meet the latest graduate of King’s College! I prob’ly shouldn’t brag, but dag, I amaze and astonish! The scholars say I got the same virtuosity and brains as my pops! The ladies say my brain’s not where the resemblance stops! I’m only nineteen but my mind is older, Gotta be my own man, like my father, but bolder. I shoulder his legacy with pride, I used to hear him say That someday I would—

「キングズ・カレッジの最近の卒業生に出会った。私は自慢すべきじゃないかもしれないけど、でも驚きなんだ。私が父と同じくらいすばらしい才能を持っていると先生たちが言うんだから。淑女たちは私の頭脳が父とそっくりだと言っている。私はまだ19才だけど精神は大人びている。父のように独り立ちするぞ。でももっと大胆に。私は父の名声を誇りとともに担う。父が私に向かっていつも言っている。きっといつかおまえは・・・」


解説:フィリップはハミルトンと同じコロンビア大学(旧キングズ・カレッジ、1784年に改称)に入学して前年に卒業している。そして、父と同じく弁護士になるべく準備をしていた。フィリップは父親譲りの才能を持っていて将来を嘱望されていた。


ENSEMBLE:

Blow us all away.

「我々を凌駕するだろう」


Philip approaches two young women, Martha & Dolly.


PHILIP:

Ladies, I’m lookin for a Mr. George Eacker. Made a speech last week, our Fourth of July speaker. He disparaged my father’s legacy in front of a crowd. I can’t have that, I’m making my father proud.

「淑女たち、私はジョージ・エッカー氏を探している。先週、7月4日の独立記念日の演説をした人だ。彼は公衆の面前で父の名声を傷つけた。父を誇りに思っている私には我慢できないね」


解説:1801年7月4日、アメリカは独立宣言25周年を祝った。ジョージ・エッカーは祝典で演説を読み上げた。その中でエッカーは、アダムズ政権時代、フランスとの緊張が高まる中で創設された臨時軍に対する批判をおこなった。

当時、臨時軍のトップには、まだ存命中であったワシントンが据えられた。その時、臨時軍におけるハミルトンの序列に関して騒動が起きた。アダムズはハミルトンを上位に置くのを嫌がったが、ワシントンの要請に従った。結局、臨時軍の実務はハミルトンに委ねられた。そうした状況をエッカーは、ハミルトンが臨時軍を使って民主共和派を抑圧するために使おうとしていると非難した。

フィリップはエッカーの演説を直接聞いたわけではないが、新聞に掲載されたものを読んで父の名誉が傷つけられたと怒った。それが決闘の原因になった。


MARTHA:

I saw him just up Broadway a couple of blocks. He was goin’ to see a play.

「数ブロック先でブロードウェイを歩く彼を見ましたよ。お芝居を見に行く途中みたいです」


PHILIP:

Well, I’ll go visit his box.

「よし彼の座席にお邪魔しよう」


解説:チャーナウの『ハミルトン伝』では、1801年11月20日にフィリップが劇場でたまたまエッカーの姿を見たことになっている。


DOLLY:

God, you’re a fox.

「いいわね、あなたはなかなかやり手ね」


PHILIP:

And y’all look pretty good in ya’ frocks. How ‘bout when I get back, we all strip down to our socks?

「ドレスを着ているとなかなかすてきだね。私が戻ったらみんなで靴下を脱いでしまおうじゃないか」


BOTH:

Ok!

「いいわよ」


Philip struts.


RECORDING:

Blo- blo- blo-

「・・・」


COMPANY:

Blow us all away!

「我々を凌駕するだろう」


The theater. George Eacker with a friend in the balcony. Philip enters behind him.


PHILIP:

George!

「ジョージ」


GEORGE:

Shh.

「静かに」


PHILIP:

George!

「ジョージ」


GEORGE:

Shh! I’m tryin’ to watch the show!

「静かにしろよ。私は劇を見ているんだ」


PHILIP:

Ya’ shoulda watched your mouth before you talked about my father though!

「私の父について話す時は言葉に気をつけろよ」


GEORGE:

I didn’t say anything that wasn’t true. You father’s a scoundrel, and so, it seems, are you.

「私は嘘は何も言っていない。おまえの父は悪党か、まあそんなものだろうが」


ENSEMBLE:

Ooooooooooh!

「おおお」


PHILIP:

It’s like that?

「どういうことだ」


GEORGE:

Yeah, I don’t fool around. I’m not your little schoolboy friends.

「ああ、私は馬鹿じゃないってことさ。私はおまえのご学友さんではないからな」


PHILIP:

See you on the dueling ground. That is, unless you wanna step outside and go now.

「決闘場でまた会おう。おまえが外に出て今、すぐに行きたくないなら」


GEORGE:

I know where to find you, piss off. I’m watchin’ this show now.

「わかったから、もうさっさと消えろ。私は今、劇を見ているんだから」


解説:ミランダは「ジョージ・エッカーが見ていた劇の名前は『ザ・ウェスト・インディアン』だった。西インド諸島の生まれであるハミルトンのことを考えると、言及せずにはいられない」と述べている。

チャーナウの『ハミルトン伝』で説明されている経緯は少し異なる。フィリップに非難されたエッカーはロビーに出て話し合いに応じた。それでも決着がつかなかったので居酒屋に行って話し合った。結局、話し合いは決裂してエッカーは劇場に戻った。


The scene shifts. Hamilton enters.


PHILIP:

Pops, if you had only heard the shit he said about you I doubt you would have let it slide and I was not about to—

「父さん、あなたについて奴が言っていたことを聞きましたか。あなたはそれを放置するんですか。私は・・・」


HAMILTON:

Slow down.

「落ち着け」


PHILIP:

I came to ask you for advice. This is my very first duel. They don’t exactly cover this subject in boarding school.

「私は助言を仰ぎに来ました。私の初めての決闘です。この課題について寄宿学校ではきちんと習っていません」


HAMILTON:

Did your friends attempt to negotiate a peace?

「和解を持ちかける友人はいないのか」


PHILIP:

He refused to apologize, we had to let the peace talks cease.

「彼は謝罪を拒みました。我々は和解交渉を諦めなければなりませんでした」


解説:エッカーは劇場のロビーでフィリップと友人を「ならず者」と呼んだ。その言葉の撤回を求められたエッカーであったが、それを拒んだ。


HAMILTON:

Where is this happening?

「決闘はどこでやるんだ」


PHILIP:

Across the river, in Jersey.

「川を渡ってニュー・ジャージーでやります」


解説:11月23日午後3時、ウィホーケンで決闘は実施された。


HAMILTON, PHILIP:

Everything is legal in New Jersey…

「ニュー・ジャージーでは決闘がすべて合法・・・」


HAMILTON:

Alright. So this is what you’re gonna do. Stand there like a man until Eacker is in front of you. When the time comes, fire your weapon in the air. This will put an end to the whole affair.

「わかった。それがおまえのやりたいことなんだな。エッカーがおまえの前に立つまで男らしく立っているように。時間が来たら宙に向かって発砲しろ。そうすればすべて終わりだ」


解説:ミランダは「これはいわゆる決闘における「空中に弾を放つ」という実際の技術である。それは誰もに男らしいことを証明することを可能にし、家に生きて戻れるようにした」と記している。

ミランダが言うように当時の決闘はこのようなものだった。命のやり取りを実際にするとは限らず、互いに弾を空中に放って面目を保つという儀式であった。ただ時には実際に相手を狙って銃弾を撃つこともあったので決闘が絶対に安全であったとは限らない。ハミルトンがフィリップに助言したという話はチャーナウの『ハミルトン伝』によれば、フィリップの同窓生の証言によるという。


PHILIP:

But what if he decides to shoot? Then I’m a goner.

「でももし奴が撃ってきたらどうしますか。私は負けてしまいます」


HAMILTON:

No. He’ll follow suit if he’s truly a man of honor. To take someone’s life, that is something you can’t shake. Philip, your mother can’t take another heartbreak.

「だめだ。もし彼が本当の名誉ある男ならきっとそれに倣うだろう。揺らがない信念がおまえになければ誰かの命を奪ってはいけない。フィリップ、母さんは誰かの心を痛めたりしないぞ」


PHILIP:

Father—

「父さん」


HAMILTON:

Promise me. You don’t want this Young man’s blood on your conscience.

「約束してくれ。良心に誓ってこの若者の血を求めたりしないと」


PHILIP:

Okay, I promise.

「わかりました。約束します」


HAMILTON:

Come back home when you’re done. Take my guns. Be smart. Make me proud, son.

「終わったら家に戻ってくるんだ。私の銃を持っていくといい。うまくやれよ。息子よ、おまえを誇りに思いたい」


Hamilton hands his guns to Philip and exits.


PHILIP:

My name is Philip I am a poet And I’m a little nervous, but I can’t show it. I’m sorry, I’m a Hamilton with pride. You talk about my father, I cannot let it slide.

「私はフィリップ、詩人さ。でもちょっと神経質だからそれを披露しない。すまないが私はハミルトンの名前に誇りを持っている。おまえは私の父について話した。私はそれを放置できない」


解説:この部分は27—Take A Breakの歌詞と対になっている。

「お父さん、お父さん、僕はフィリップ、詩人だよ。詩を書いたから披露するよ。僕は9才になったばかり。僕の詩よりも素敵な詩はきっと書けないよ」


Philip & George face off.


PHILIP:

Mr. Eacker! How was the rest of your show?

「エッカー氏、もうそれで終わりか」


GEORGE:

I’d rather skip the pleasantries. Let’s go. Grab your pistol.

「ごたくはもういい。さあやるぞ。ピストルを構えろ」


PHILIP:

Confer with your men. The duel will commence after we count to ten.

「打ち合わせをしろ。決闘は10数えてから始めよう」


ENSEMBLE:

Count to ten!

「10数えろ」


PHILIP:

Look ‘im in the eye, aim no higher. Summon all the courage you require. Then slowly and clearly aim your gun towards the sky—

「奴をしっかりと見据えてあまり高いところは狙わない。必要な勇気を振り絞れ。それからゆっくりと銃を空に向けて・・・」


MEN:

One two three four

「1、2、3、4」


FULL ENSEMBLE:

Five six seven—

「5、6、7・・・」


Eacker fires early. Philip goes down.


解説:エッカーが先に撃ったという話はない。合図があった後、2人は無言で睨み合った。そして、エッカーが放った銃弾がフィリップの胴体を貫通した。フィリップも発砲したがすぐに倒れた。


ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説41―Stay Alive (Reprise) 和訳

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