ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説42―It's Quiet Uptown 和訳

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ANGELICA:

There are moments that the words don’t reach. There is suffering too terrible to name. You hold your child as tight as you can And push away the unimaginable. The moments when you’re in so deep It feels easier to just swim down.

「言葉が無力な時もあるわ。どう呼んだらよいのかわからない苦しみもあるの。子供をできる限り強く抱き締めるように。やりきれない思いを振り払えるように。深みにはまれば、それだけ乗り切るのが簡単に感じられるわ」


ANGELICA, ENSEMBLE:

The Hamiltons move uptown And learn to live with the unimaginable.

「ハミルトン一家は郊外に移った。そして、やりきれない思いを抱えながら暮らした」


解説:ハミルトンの自宅として有名なグレーンジは、当時、ニュー・ヨーク・シティの市街地から離れた場所にあり、1802年に完成した。現在のグレーンジは移転された場所である。


HAMILTON:

I spend hours in the garden. I walk alone to the store. And it’s quiet uptown. I never liked the quiet before. I take the children to church on Sunday. A sign of the cross at the door. And I pray. That never used to happen before.

「私は庭で時間を過ごした。店まで独りで歩いて行った。静かな郊外だ。以前、私は静かなところはあまり好きではなかったのに。日曜日には子供たちを教会に連れて行く。十字架の印が扉にあるところへ。そして、私は祈る。以前はそんなことはなかったのだが」


ANGELICA, WOMEN:

If you see him in the street, walking by himself, talking to himself. Have pity.

「もしあなたが彼を通りで見かけたら彼は独りで歩いて独り言を言っているに違いないわ。なんてかわいそうなの」


解説:エズラ・エイムズが1802年に描いた肖像画を見ると、息子を失った悲しみがハミルトンの表情にありありと出ている。


1801年11月26日、フィリップの死を知ったベンジャミン・ラッシュはハミルトンに以下のような手紙を送っている。

あなたの家族に起きた先の苦痛に満ちた出来事において私の家族全員の涙をあなたの家族と混じらせることをお許しください。家族全員で同情を示すこと、そして、あなたのご子息が先にフィラデルフィアを訪問した際にその魅力あるふるまいで私の家族とすっかり仲良くなったことを伝えれば、あなたの悲痛を和らげるのに役立つかもしれません。ご子息の訪問は毎日のようでした。そして、そのたびにその理解力と作法のすばらしさ、そして、善良な性質を我々にあらためて認識させました。私の子供たちの一人に友情と慈愛で親しんでくれました。それは彼にとって大きな栄誉であり、ラッシュ夫人と私自身によって感謝の念とともに生きている限り記憶され続けるでしょう。私の息子は、ご子息がニュー・ヨークに帰った後、受け取った優雅で友情に溢れた手紙でそのことを記憶しています。あなたは独りで泣いているわけではありません。多くの多くの涙があなたたちのために我々の街で流されています。ご子息が人生の最期を迎えた信心深い様子を聞いてあなたの友人たちはきっと大きな慰めを得るでしょう。神は人間のように裁かず咎めません。神の慈悲には限りがないのです。

この手紙にハミルトンがようやく返信したのは1802年3月29日である。

私の人生の中で最も苦痛に満ちた無類の出来事について示された優しい気遣いについて、あなたとあなたのすばらしい家族に負っている借りを私は重く受け止めています。しかし、ご親切について感じることを述べるにはまだもう少し冷静になれるのを待たなければなりません。私の喪失は非常に大きなものです。私の家族の中で最年長で最も将来を嘱望されていた者が私のもとから奪い去られました。あなたは彼のことを正しく評価してくれました。彼は本当にすばらしい若者でした。しかし、私は不平を言うべきでしょうか。それは神のご意思なのです。そして、今、彼は迷妄と災厄、愚行、悪徳、危険に満ち、せいぜい少しばかりの価値しかない世界から離れた場所にいます。私は彼が永遠の休息と幸福がある天国に無事に至ったと確信しています。あなたは、彼の善良な心が私にとってとても大事だったとわかるでしょう。ご子息への手紙にそれが記録されているとあなたは言及してくれました。もし差し支えなければ、その手紙の写しをいただければ幸いです。


HAMILTON:

Philip, you would like it uptown. It’s quiet uptown.

「フィリップ、おまえは郊外が気に入っただろうか。静かな郊外を」


ANGELICA, WOMEN:

He is working through the unimaginable.

「彼はやりきれない思いと何とか折り合おうとしている」


ALL MEN (EXCEPT HAMILTON):

His hair has gone grey. He passes every day. They say he walks the length of the city.

「彼の髪は灰色になっている。彼は毎日をただ過ごしている。彼は街まで歩き通したという」


HAMILTON:

You knock me out, I fall apart.

「おまえは私をうちのめしてしまった。もう私はだめだ」


COMPANY (EXCEPT HAMILTON AND ELIZA):

Can you imagine?

「想像できるかい」


Eliza enters.


HAMILTON:

Look at where we are. Look at where we started. I know I don’t deserve you, Eliza. But hear me out. That would be enough. If I could spare his life If I could trade his life for mine, He’d be standing here right now And you would smile, and that would be enough I don’t pretend to know The challenges we’re facing. I know there’s no replacing what we’ve lost and you need time. But I’m not afraid. I know who I married. Just let me stay here by your side, That would be enough.

「今、我々がいる立場を考えてみよう。我々がどんな所から人生を始めたか考えてみよう。私は自分が君にふさわしいかわからない、イライザ。しかし、私の言うことをよく聞いてほしい。もし私が息子に命を割けるなら私の命と交換でもいい。息子が今、ここにいてくれたらきっと君は笑ってくれる。それだけで十分なんだ。我々が直面している試練について知ったふうな顔をしない。我々が失ったものに代わりなんかない。君には時間が必要だ。でも私は怖くない。私はどういう人と結婚したかわかっているから。君のそばにいさせてもらうだけでいいから。それだけで十分なんだ」


解説:17—That Would Be Enoughのイライザの台詞と対をなしている。

「私はあなたの妻であるだけで嬉しいわ。周りを見てごらんなさいよ、周りを見てごらんなさいよ・・・。今、あなたがいる立場を考えてみて。あなたがどんな所から人生を始めたか考えてみて。あなたが生きているだけで奇跡だわ。生きてるだけでいいの。それだけで十分なのよ。そして、もしこの子があなたの笑顔を少しでも分け合えたら、あなたの心を少しでも分け合えたら、前途洋々よ。あなたが直面している試練について、あなたの心の中で生まれたり消えたりしているいろいろなことについて、私は知ったふうな顔をしないわ。でも私は怖くないの。私はどういう人と結婚したのかわかっていますから。最後にあなたが帰って来てくれれば、それだけで十分なのよ。名声なんか要らないわ。お金も要らないわ。もし私があなたに心の安らぎを与えられるなら。ああもしあなたが私をあなたの心の中に入れてくれるなら、もしあなたが私をきっといつか書かれる人生という物語の一部にしてくれるなら。この瞬間を第一章にしましょう。あなたが自分自身で決めた場所にとどまるだけで私は満足だわ。私達は満足だわ。それだけで十分なのよ」


COMPANY (EXCEPT HAMILTON AND ELIZA):

If you see him in the street, walking by her side, talking by her side, have pity.

「もしあなたが彼を通りで見かけたら彼は独りで歩いて独り言を言っているに違いないわ」


HAMILTON:

Eliza, do you like it uptown? It’s quiet uptown.

「イライザ、郊外は気に入ったかい。この静かな郊外を」


COMPANY (EXCEPT HAMILTON AND ELIZA):

He is trying to do the unimaginable. See them walking in the park, long after dark, Taking in the sights of the city.

「彼はやりきれない思いと何とか折り合おうとしている。暗くなった後も彼らは公園を歩いて街の光景を見ている」


HAMILTON:

Look around, look around, Eliza.

「周りを見てごらん。周りを見てごらん、イライザ」


COMPANY (EXCEPT HAMILTON AND ELIZA):

They are trying to do the unimaginable.

「彼らはやりきれない思いと何とか折り合おうとしている」


ANGELICA:

There are moments that the words don’t reach. There is a grace too powerful to name. We push away what we can never understand, We push away the unimaginable.

「言葉が無力な時もあるわ。どう呼んだらよいのかわからない苦しみもあるの。子供をできる限り強く抱き締めるように。余計なことは考えないように。深く深く物思いに沈めば、それだけ乗り切るのが簡単に感じられるわ」


Hamilton & Eliza stand side by side.


ANGELICA:

They are standing in the garden, Alexander by Eliza’s side. She takes his hand.

「彼らは庭に立っている。アレグザンダーはイライザのそばにいる。彼女は彼の手を取った」


Eliza takes Hamilton's hand.


ELIZA:

It’s quiet uptown.

「静かな郊外で」


Hamilton shatters.


COMPANY (EXCEPT HAMILTON AND ELIZA):

Forgiveness. Can you imagine? Forgiveness. Can you imagine? If you see him in the street, walking by her side, talking by her side, have pity. They are going through the unimaginable.

「寛恕を。想像できるかい。寛恕を。想像できるかい。もしあなたが彼を通りで見かけたら彼は彼女と一緒に歩いて彼女に話しているに違いない。なんてかわいそうなの。彼らはやりきれない思いと何とか折り合おうとしている」


ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説43―The Election of 1800 和訳

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