原文&和訳のみ解説なし⇒ミュージカル『ハミルトン』Best of Wives and Best of Women 和訳
Hamilton is writing. Eliza enters.
ELIZA:
Alexander, come back to sleep.
「アレグザンダー、もう一眠りしたら」
HAMILTON:
I have an early meeting out of town.
「街外れで早朝、人と会う約束があるんだ」
ELIZA:
It's still dark outside.
「まだ外は暗いわよ」
HAMILTON:
I know. I just need to write something down.
「わかっている。ちょっと書物をしておかないといけないんだ」
解説:7月9日朝、ハミルトンはグレーンジでイライザに別れを告げて市内にある家に移った。そして、9日と10日にわたって仕事をしていた。ただ万が一の場合に備えて別れの挨拶を書いている。決闘の日は11日である。
ELIZA:
Why do you write like you're running out of time?
「なぜあなたはまるで時間がないかのように一心不乱に書くの」
解説:24—Non-Stopと対になっている。
HAMILTON:
Shhh.
「静かに」
ELIZA:
Come back to bed. That would be enough.
「また眠りましょうよ。それで十分だわ」
HAMILTON:
I'll be back before you know I'm gone.
「なあにすぐ戻ってくるさ。私が出かけていたことに君が気づかないくらいにね」
ELIZA:
Come back to sleep.
「また眠りましょうよ」
HAMILTON:
This meeting's at dawn.
「夜明けに人と会わないといけないんだ」
ELIZA:
Well, I'm going back to sleep.
「じゃあ私はまた一眠りするわ」
Hamilton kisses Eliza's hand.
HAMILTON:
Hey. Best of wives and best of women.
「ああ、最高の妻にして最高の女」
解説:この部分はハミルトンがイライザに宛てた1804年7月4日付の手紙に基づいている。
我が最愛なるイライザ、もし私が地上での生を終えることがなければ、この手紙が君に届けられることはないかもしれない。まず私は神から慈悲、恩寵、そして、幸福な永遠の生を与えられるように懇願する。もし決闘[訳注:原語ではinterview。当時、決闘はそうした婉曲表現で呼ばれることが多かった。なぜなら決闘を挑むのも受けるのも違法だったからである。話し合いの中であくまで偶然に決闘に至ったという形式にしなければならなかった]が避けられるものなら、君と大切な子供たちへの愛が強い動機になるだろう。しかし、それは不可能なのだ。犠牲を捧げなければ、私は君にとってふさわしくない男になってしまう。きっと君が別離で感じるであろう悲痛を私が痛いほど感じていることは言うまでもないだろう。私の決意を鈍らせないようにもうこれ以上、この話については書かないようにする。我が愛する人よ、信仰による慰めが君を支えてくれるだろう。そして、君にはそれを享受する権利がある。神のみもとに飛び込めば慰めが得られるだろう。最後に思うのは、私はきっと君と来世で再会できるという甘美な喜望を大事にしているということだ。さようなら最高の妻にして最高の女。私に代わって愛する子供たちを抱きしめておくれ。
ハミルトンは決闘の前夜にイライザに最後の手紙を送っている。
キリスト教徒としての良心の呵責によって私は誰かの命を奪うよりは自分自身の命を危険にさらしたほうがましだと決意した。これは私の危険を増加させ、君のために感じる心痛を倍加させる。しかし、罪を負ったまま死ぬよりも罪がないままで死んだほうがましだと君はわかってくれるだろう。神のおかげで私は事態がそうならないようになるという希望を持っている。君がキリスト教徒であることを忘れないように。神のご意思のままに。慈悲深い神のご意思はきっと善良である。
⇒ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説46―The World Was Wide Enough 和訳
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